そして鬼はいなくなった
【弐拾伍話、私は北の里の頭領、そして…】
時が来た。
秋が深まり冬かとも錯覚させるようなある晴れの日。京の外れに鬼が集っている。今日、風間千景と天霧九寿が一足早く京を発つのだ。長い旅になるだろう。二人は菅笠で顔を隠し旅人を装っている。…刀こそ見えないが物騒な旅路だ、彼の愛刀はどこかに隠し持っているはずだ。見送りの為に集まった私達は彼等に旅の無事を願う言葉をかける。次に彼に会うのは…冬を越えた春か。あるいは初夏の頃か。わからない。
雛が願掛けをした手作りのお守りを二人に渡している。天霧は丁寧に受け取っているが、千景の方はそのちょっと歪な出来栄えに小言を漏らしてまた言い合いになっているようだ。
「風間ァ。俺も千と京の鬼連れて直ぐ追いついてやるから、変な勢力にやられんなよ」
「この俺を誰だと思っている。貴様は自分の身の心配でもしておけ」
「言ってくれるじゃねーか。お前らしいからいいけどよ」
「私も京の鬼と共に行くから。その時はお願いするわ」
「分かっている」
皆との話を終えると千景が私の前にやって来た。混じり合う柔らかな視線。いつ見ても容姿端麗…いい男だ。
「
。俺はお前が里鬼を導き、我が元へ訪れる日を待ちわびている」
「少しの間離れることになるが…其方の心を煩わせる程ではないさ。私の心は其方に捧げたからな」
「俺の心もお前にくれてやろう。再び会うまではこの櫛を俺だと思い、いつも身につけておけ」
私は噛み締めるように強く頷いた。千景の手が私の肩に触れて、優しく引き寄せられる。そのまま私は男の腕の中。外の空気に冷やされた肌に温もりが移って身体中が暖かい。後ろでは「千姫様!?」と雛の声が聞こえた。大方、千姫が雛の視界を遮ったのだろう。
「
」
そう声をかけられて、ゆっくりと近く顔。反射的に瞼を閉じる。これから何が起きるかって…分かっている。合わさった唇が互いの存在と胸に秘めていた思いを感じ取り合う。やがて顔が離れた。
「この口づけは俺とお前が他人ではないという証だ」
「私が全てを許すのは其方…千景だけだ」
「必ず我が背を追ってこい。いつまでもお前が来るのを待とう…いや、来なければ迎えに行く」
「愚論だ」
私はそう言い切った。
「安心しろ。その背中、地獄の果てまで追ってやる。私を一体誰だと思っているのだ。私は北の里の頭領…そして、其方の妻になる女だ」
その言葉を聞いて、フンと男が笑った。「里に来れば祝言だ」今一度彼は私を抱きしめた。男の 背に自らの手を回す。名残惜しい気持ちは何物にも例えられないだろう。
「道中お気をつけて」
そう言葉をかけて二人は旅立った。その数日後、千姫と不知火そして菊月に見送られ、私は雛を連れて京を離れた。もうすぐそこまで迫った冬を里で皆と乗り越え、春と共に皆を引き連れて旅立つ為に。北の里までは数日で着く距離だ。皆への土産を奮発して二人で抱える。
には予め手紙を書いていたから、我々を迎える準備はしてくれているだろうか。京に住まう鬼も、頃合いを見計らい最果ての地へと旅立ったらしい。
最後の冬が迫っている。そしてその先にある始まりの春も。
そして鬼はいなくなった【完】
これにて完結。ここまでお付き合い頂きありがとうございました!
20171231*星宮はちこ 裏語