何がどうしてこうなった!?斎藤君に押し倒されて

設定とか

主人公は長編“櫻色ノ薔薇”の子。薄桜鬼陣はSSL設定ながら、主人公は“欧州女学院”という別の私学出身。生徒会。学校間の用事で薄桜学園を訪れており、主要生徒・先生とは顔見知り。

いったい何がどうしてこうなったと言うのだ。
私は今、とっても狭い(恐らく人ひとり分が通れるような)空間にいた。 正確には寝そべっていた。狭いとっても横幅が…ではなく縦の方。 横は両手を広げても何もない。だがこの空間の高さの限界は50㎝くらいだろうか。 手を上げれば容易に届く。立ち上がることは叶わない。 そしてそこは電気も点いてなくて薄暗いが、どこからか光が差し込んでいて真っ暗というわけでもない。
そしてこの状況で一番に伝えておかなければならないのは、仰向けに横たわった私の上に斎藤君が覆いかぶさっているということだ。


欧州から呼ばれていつものように薄桜に来た。 そして斎藤君が備品を持ってくるように頼まれていて、私も手伝いを申し出た。 うん、ここまでは何も問題ないはずだ。そこからだ。 備品置き場(備品庫)は棚がこれでもかと詰め込まれていて物に溢れかえっていた。 箱には中に入っているであろう備品の名前が書かれているが、これだけの量だからすぐには見つからない。 一つ一つ書かれている名前を確認しながら二手に分かれて捜索していた。 ボールペンにファイル、コピー用紙、クリップ(小)とここら辺は事務用品が中心のようだった。 棚を変えて下から上に探す。メイド服一式に鬼の面、漢方原料(触るな)、競馬雑誌…一体何に使う備品だ。が一つ一つ心の中でツッコミを入れた時だった。

─ギイッミシミシ
「(ん?何だか嫌な音が…)」

の耳が独特な金属音を捉えて振り返る。


!危ない!!」


斎藤君の叫び声と血相を変えた顔。 あら綺麗な顔が台無しじゃないって思っていたんだけど、私に向かって何かが傾いてくる…何これ? そこからは特に覚えていない。酷い音と背中と頭を打った痛みと重みを感じた。



そして今に至る。
状況を一度整理しておこう。恐らく…棚が倒れた。 音と散乱している物の感じからして間違いない。 そして倒れたのは中央に寄せられていた棚の一部で、奥に居る私に向かってきた。 斎藤君は私を…いや私を抱え込んで倒れた。記憶は曖昧だがそんな気がする。 倒れ込んだ拍子に頭と背中を打った…。そして彼は私の上に被さっている。 そうか…謎は全て解けた!

「大丈夫か!?怪我などは…」
「うん、大丈夫。でもちょっと頭打ったみたい」

腹部~臀部に彼が乗っているためか足が痺れてきている。 だがそれよりも頭を打った方が痛かった。 頭も頑丈な方だから出血はしていないだろうがジンジンと痛みが響く。 斎藤君の眼差しは不安に満ち伏せられていたが、何かを思い立ったらしい。 子犬のように輝かせて私を捉えた。


「大事ないか?」
「!?」


彼の空いた手が私の頭を抱え込む。その手は後頭部に寄せられる。 傷や腫れが無いかを確かめながら、手は右へ左へ頭を包み込む。 顔が随分近いように感じる。彼の整った顔を直視できなくて視線を逸らした。 きっと頬が赤くなっているし鼓動も早くなったのを感じる。 悟られない様に必死だ。

「すまない。あのままだと棚が直撃していた」
「…助けてくれてありがとう」

いつの間にか彼が私を見つめていた。やっぱり距離が近い。 睫毛が長くて美人だなあなんてこんな状況で不謹慎にも考えてしまう。


「上…退いてもらっても…いい?恥ずかしくて…」
「あっ…その…すまない。足が挟まっていて動けんのだ」
「それって大丈夫なの!?」
「大事ない」


彼は運動部だ。足にもしものことがあったら只事では済まされない。はどうにか彼を救おうと考えを巡らせた。引き抜くのが一番か、早く助けを呼ばねば。 しかしこの備品庫、校舎の外れの奥に位置していた。 声を上げても生徒など通るのか。 斎藤君の背中に手を回す。

「!?」

ふふ。今の彼の驚いた表情忘れないわ。もう二度と見れないかも知れないけど。 写真にでも残せたら良かった…なんてやっぱり不謹慎ね。


「引き抜くの手伝うわ」
「大丈夫だ!心配ない。それに…」
「それに何?」


彼が視線を逸らした。何処か頬が赤いような…気がする。気のせいかしら。 素っ気なく背中に回していた両手を外された。何だろうか。 もしかしてこんな状況でも大人しいままの女の子がお好みだったのかもしれない。 斎藤君には合わなかったのか。大人しさは何処かに飛んで行って既に失ってしまった。 ちょっぴり反省しておこう。 剣道一筋でクールな斎藤君。容姿端麗。 少しだけかっこいいなと思っていたのはここだけの話。もう忘れよう。
そんなこんなを色々と考えていたら上に乗っていた斎藤君が大きく体を動かした。 膝立ちになって腰を浮かし、の両肩の脇に両肘をついている。 何とも不自然でバランスの悪い体勢だ。見ていても腰に負担が掛かっているように感じる。

「ねえ斎藤君大丈夫?」
「ああ」
「本当に?腰とか痛くない?」
「あんたは少し、黙っていろ」

ピシャリと言われてしまえばそれまでだった。しかしあんな体勢でしんどくないわけがないのだ。 一体彼に何があったの言うのだろうか。足も挟まれているらしいし心配だ。 斎藤君の表情を見つめていると、視線は合わせてくれないが何かに耐えているような苦しんでいるような表情だった。



「あんたに良く思われたいと思うのは…きっと、当然のことだ」


小さく、聞こえないような声で彼が呟いた。まるで自問自答のような呟きだった。 今の体勢が辛いのか何度も角度を変えたり手を付いたりしている。 無理に変な体勢をしなくてもいいのに。 斎藤君にはもっとこっちに体重を掛けて楽をしてもらいたい。 もうちょっとしたら助け(?)が来るであろう。


「ねえ斎藤君どうしたのよ。もっと楽して…ね?私なら大丈夫だからさ」
「何を!!?」


もう一度彼の背中に手を回しゆっくり彼を抱き寄せた。 彼は驚き強情にも腕に力を入れた様だったが、私が彼を抱き寄せる方が僅かに早かった。 彼の体が私に沈んでくる。同世代と言えども男の子。子供とはまた違ってやはり大きくて重い。 でも彼が支えていたものの重さに比べたら、どうこう言っていられない。 でも生身の体は暖かった。じんわりと熱が伝わってくる。 私の早い鼓動はもうバレてしまっているかもしれない。

「?」

彼は体重を存分に私に預けてくれているはずだ。 なのに如何してか腰部分に重みは感じなかった。僅かに…浮かせている? そして、羞恥に耐えているような表情。


「腰…苦しいでしょ」
「あんたに…その…俺が慎みがなく…不純な男に…思われたくない」
「…へ?」


思わず間抜けな声が出てしまったではないか。 慎みがなく?不純? 誰の事だ。斎藤君とはまったく真逆の単語。 まさか彼の口から出てくるとも思わなかった。 一体彼は何が言いたかったのか。


「(慎みがない。不純な男。そんでもってこの状況。あー、もしかしてもしかすると…)」


咄嗟に、いや反射的に彼の顔を見つめてしまった。 斎藤君はなおも羞恥に満ちた顔をしながら視線を逸らしまくっていた。 なるほどそういうことか。
こういう状況だからか、年頃の男の子として体が反応してしまっているらしいのだ。 つまり…その、アレだ。ぼ…。もうこれ以上口にするのも恥ずかしい。 私も保健体育の科目を真面目に受けといて良かったと改めて思う。 大体保健体育は、みんなニヤニヤ笑いながら適当に数ページ飛ばし読みするのが普通だったのに。
かくしてこの状況で彼が腰を浮かし続ける理由は判明した。 そしてどうするべきか。こんな狭っ苦しい状況で足を挟まれ続けながら更に腰まで浮かし続けさせるなんて斎藤君には申し訳ない。 彼には少しでも楽をしてもらい。 腰を…下ろしてもらおう。


「斎藤君、聞いて頂戴!」
「?」
「言おうとしていることはわかったわ!でっでも、心配なんていらないから…その…腰、下ろしてくれても…いいわよ」
「あんたは今何を言っているのか理解しているのか」
「解っていなかったら…言わないわ。それにその…私、全然気にしていないんだから!」


は一息に言い切った。精一杯の思いだ。 すると彼女の言葉を聞いた斎藤がこれでもかと目を見開く。 何か間違ったことを言っただろうか。



「俺はその、にとって…“男”として…見られていないということか」



まるで捨てられた子犬のような寂しそうな瞳。 きっと彼に犬の耳が生えていたら垂れ下がってぺったんこになっているだろう。 同級生で同い年、身長も彼の方が少し高い。なのに今の彼は本当に子犬のように見えてくるから不思議だ。 これはこれで可愛いかもしれない。彼の意外な一面を見てしまった。 こんなことを彼に伝えたら拗ねてしばらく喋ってくれないかもしれないから言わないけど。

「そうじゃない。斎藤君を男として信頼しているからこんな状況でも安心していられるの。これが沖田君やあの生徒会長だったらきっと平常心じゃいれないわ。もちろん悪い意味でよ」

目をパチくりさせる斎藤君がまた可愛らしい。 抱きしめて撫でたいなんてやっぱり口にはできない。 斎藤君は大きく息を吐き出すと真剣な眼差しで見つめてきた。 ドキッと胸が高鳴る。

「本当に良いのか?」
「ええ」

律儀に「失礼する」なんて言ってたけれど、これって斎藤君が私を上に腰を下ろすって行為だけなんだけどね。 別にそれ以上でもそれ以下でもなく。ただ腰を下ろすだけ。 斎藤君がゆっくりと体重を預けてくれた。ピッタリと体が合わさる。 でもなんか、ああだこうだ言われてしまうと下手に意識してしまうわけで…。 少しだけ、やっぱり少しだけそれが分かるっていうか当たっているわけでありまして。 相変わらず顔の位置は近いし息遣いは存分に感じるし、呼吸をする度に胸や肩は上下するし、私の鼓動はもうバクバクだし、人肌って温かいし、何気に体の重みは感じるし…。


「(誰か何とかしてほしい。むしろ早く助けに来てよ)」


斎藤君は視線をずっと外したままで羞恥心からはギリギリ逃れることが出来ている状況だ。 重いけど斎藤君って暖かい。ボーっとそんなことを考えているとどこからやって来たのか睡魔が。 よくもまあこんな状況で…と言いたいところだが、体に感じる重み以外は意外と心地よかった。

「(あー、もう駄目かも。寝顔見られてしまう)」

目蓋が重くなってきた。こんな状況で斎藤君に乗っかられながら眠っちゃうなんて…。 後でにでも知られたらどうなってしまうんだろう。 耳元で斎藤君が私の名前を呼んだ。答えたくても言葉にならない。 もうほとんど目蓋は閉じてしまっていた。意識ももうほぼ途切れかけようとしている。

「(何?斎藤君…)」

そして唇に何かが触れたような気がした。



それから、どうにかして永倉先生に見つけてもらった私達は無事に備品庫から脱出することができた。永倉先生は自慢の(?)腕力で倒れた棚を全て一人で動かしたらしい。 何という怪力だろうか。 斎藤君の温もりに当てられて彼の下で居眠りをしてしまっていた私はたたき起こされることもなく、そのまま土方先生に横抱きにされながら保健室に運ばれたらしい。 ああこれも失点の一つだ。寝顔を土方先生にも見られてしまったなんて!
目を覚ました時には周りに誰もいなかったが、運んでくれたであろう土方先生が(でもこの時はまだそれを知らなかった)頭を掻きながらカーテンの隙間から顔を見せた。 さっきの出来事を思い出せば途端に赤面してしまう。何があったのかなんてそんなの詳細に言えるわけがない。ただ…そう、備品庫を探していたら棚が倒れてきて斎藤君が守ってくれただけだ。 斎藤君は…大丈夫かな?確か足を挟まれていて…

「あ!あの斎藤君は棚に足を挟まれていたはずなのですが、怪我の方は大丈夫なのでしょうか!?」
「斎藤か?ってあいつ怪我なんかしてやがったのか!?さっき怪我の有無を聞いたときは何でもないって普通に歩いてやがったぜ。すぐ確認してくる」

そう言うとカーテンを元あったようにピシャリと閉めて保健室から出て行く音がした。
その後、彼が怪我をしたとか病院に行ったという話は聞いていない。あれ?斎藤君!? 一体何がどうしてこうなった!

もうどっちも初すぎる!とりあえず原田先生に保健体育をみっちり教えてもらいなさい!!
20140816*星宮はちこ 裏語