レプリカ虚像乙女
【第五章三十七話閑話、すり抜けた手を】
《蔵人の見た世界》
何事もなく穏やかな日常。その日もそうなるはずだった。
家に仕えて…主人である
がこの家を出てからも、使用人である自分と同僚の
はこの屋敷に留まっていた。ここは思い出の残骸かもしれない。それでも私たちは
の捨てた全てを、残らず拾って守ると決めたのだ。もはや何も言うことはない。
「
。どうかしましたか?」
同僚の表情が固まった。「可笑しいわね。胸騒ぎがするの」肩を竦めると少女の長い黒髪が揺れる。彼女の第六感はまるで神がかりとでも言うようによく当たる。それは蔵人自身も知っていた。ジッと意味深な
の視線を浴びて、胸が詰まる。
「どうも、ネズミが紛れ込んだかもしれないわ」
「ならば警備レベルを上げますか」
つまり屋敷に侵入者がいると告げているのだ。この屋敷は見た目こそ異国式の小綺麗なものだが、防犯・警備体制は江戸でも指折りのものと言える。そこかしこにある監視カメラに張り巡らされた赤外線、あるいは忍者もビックリな仕掛けまで。普段は防犯カメラに頼りっきりだが、警戒レベルを上げれば余程の手練れ出ない限り余所者の侵入は防げるだろう。
しかし彼女は「誰かに任せるより自分でやった方がマシ」などとスマートさに欠けたことを言う。確かに我々武装執事・武装メイドは普段こそ主人に仕え身の回りの世話をしているが、主人(
)の障害を排除するのが本来のお仕事。言ってしまえば裏の稼業こそ本職。掲げたルールは“最小限で最大の効果を得る”というもの。しかし同僚の彼女は、主人への忠誠心が強いのか好戦的なのか…恐らくどっちもだろうが、時折ルールを逸した行動をする節が見える。その度に周囲の物が破壊されるのは言うまでもない。蔵人が頭を抱える原因の一つでもある。部屋を出ようとする彼女を呼び止めて、以前の破壊行為を引き合いに出して止める。「変わらずの小姑ね。あーヤダヤダ」
は両手を掲げ小言をチクリ。これもいつもの事だ。小言が多いのはお互い様…なので蔵人は一切気にしていない。
彼女の言葉には耳を傾けずに、素早く携帯を兼ねた通信機器を取り出し警備室に連絡しようとした時だった。ーピピピッと、逆に蔵人の端末が鳴ったのだ。これには
も視線を寄越した。
「私だ」
“蔵人様、門の前にお客様がいらしています”
「門の前に?本日の来客予定はありませんが」
“はい。我々のリストにもその様になっております。しかし…その…訪問者は腰に刀を差し、笠で顔を覆い、顔中に包帯を巻いていて…絵に描いたような不審者でしかありません!おまけにお嬢様の名を出して、知り合いとも申しております!!いかがいたしましょか!!!”
「言っている意味がわかりません。もう一度」
“だから腰に刀を差した絵に描いたような不審な男が、お嬢様に会わせろと!!”
「すぐに対応する。少し待っていなさい」
“承知しました!持ちこたえます!!”
通話終了のボタンを押したのを見計らって、隣に戻ってきた
が嬉々と口を開いて内容を促す。簡潔に門前にアポ無しの客がいること、腰に刀を差した不審者であることを告げた。悪態を吐く彼女の口の悪さを制して、自分は姿勢を正す。
「
の名を使うなんて許さない。門の前ってことは200m位よね?私が片付けるわ。距離は短いけど新しい銃弾の試し打ちにはもってこいだから」
「
家の門前に肉片を転がすつもりですか」
彼女の新しい長銃は超長距離向け。中距離向けの銃より威力も格段に増すが、対象までの距離が短いならば威力が強すぎて逆効果。死体はきっと弾丸が撃ち抜いた強さにバラバラだろう。門前に肉片…とは警察沙汰になりかねない。「安心して。使い慣れたヤツにするから」そう言う問題ではない! 止めようとするも、既に扉の前に立って振り返る少女は笑っていた。まるで今から遊びに行くかのように無邪気な笑みだ。蔵人には彼女のこの表情が理解できない時がある。思わず自身の動きが止まっていた。
彼女が扉の向こうに消えて十分余り。どの様な手段を用いたのかはわからないが…滞りなく始末を完了したのであろう。表示「
」と映し出された通信端末が鳴ったので応じる。
「例の件は終わりましたか」
“いえ、こっちに気づくなんて初めてね”
「只者ではないということですか。どうするつもりですか」
“招いてないけれど門前払いも可哀想だから。入れて。目的を問いただしてから考える”
彼女の言葉に目蓋がピクピクと動いたのを感じる。
「不審者をわざわざ招き入れるなんて貴女、正気ですか!」
“正気じゃないわね。二人掛かりなら何とかなるかも。後始末まで済ませるからどうぞよろしく”
理解できない。その行為も彼女の意図も。しかしああなってしまった彼女を止めるのは至難の技だ。相当の体力が削られるのは想像に易い。場合によっては二人掛かりで片付ければ…あれこれせずともいいから効率的かもしれない。思わずため息が溢れる。一言、窘めるつもりで声を発しようとした時だ。ープツンと、通話が途切れた。
「(切りましたね)」
ここからが彼女にとって大切なアドバイスだったというのに。彼女への交信は諦め、自らは監視本部に一報を入れる。今から刀を差した客人(所謂不審者)を迎えるので、警備レベルを上げること、その人物の一挙手一投足を監視すること、非戦闘要員は前線から退き一時避難すること。自身もその客人を迎えるために玄関へ行かねければ。耳元に装着した受信器からは男の動向が随時伝えられる。久々の物騒な案件だ。中央監視室では皆がモニターに噛り付いているのだろう。念のため隠し持ったナイフの確認は怠らない。
上品に、しかしゆっくりもしていられないので早足で歩いていると広い吹き抜けの玄関にたどり着いた。耳元に送られてくる情報を頼りに扉越しの気配を探る。確かに人の気配が感じられた。頃合いを見て蔵人は玄関を開いた。
「いらっしゃいませ。私は
家高級執事の蔵人と申します。ご用件を伺いますので応接間にご案内致します」
軽く下げた頭を上げる。ジッと見据えた先の男の全てに…自らの動揺を知った。報告通りの編み笠、左頭部(主に眼)に巻かれた包帯、派手な着物、腰に差された刀。目の前の男に面識があるわけでもない。しかし全身を捉えた時、一瞬であるが手に汗握った様に感じた。
が言った“只者じゃない”という言葉が繰り返される。なるほど。動揺を悟られまいと手で方向を指し示すと「こちらへ」やんわりと促す。この状況で相手に背を向けるなど考えられないのかもしれないが、敵意剥き出しで下手を打っても仕方がない。先ずは相手の動向を探ること。背を追う存在に最大の注意を払って彼は廊下を進んだ。
「こちらが応接間になります」
扉を押し開き手で客人の入室を促す。相手は素直に応じて、中央のソファーに腰を下ろした。本来、主人がいるならばここで迎えて使用人は退室するのだろう。もちろん主人はこの屋敷にはいないし、不審者と付き合わすこと自体考えられないが。そのタイミングでドアがノックされる。頃合いとしては完璧だろう。流石である。「どうぞ」声をかけるとお茶を持ってきた
がワゴンを押しながら入ってきた。しかしまあ彼女からは、不審者であるが一応客人の前で押し殺せていない殺気が垣間見える。おまけに顔に穴が開くかの様にガン見…もはやメンチを切っているのだ。下手に手を出すな、と視線で合図しておいた。それが伝わったのかは定かではないが、今は大人しく給仕をしていた。勝手に毒など入れて
いないことを望むしかない。
は軽くお辞儀をすると客人の前に座った蔵人の“後ろ”に回った。殺気を頑張って押し殺している様だが、背越しに漏れ出ているのがわかる。
「本日はようこそお出で下さいました。残念ながら主人不在の為、使用人ではございますが私…高級執事の蔵人が対応させて頂きます。失礼ながら、お客様のお名前とご用件は?」
「不在ねぇ…まあそれはいい。俺ァ高杉晋助。ここの主人とやらには前に色々と世話になってな。家が近いってんで挨拶にきただけだ」
高杉晋助…どこかで聞いたことがあるような気がするが、思い出せない。主人である
の古い友人や仕事付き合いの関係ならば少なくとも覚えているのだが。脳内を巡ってみても思い当たるものはない。
は何か知らないだろうか。軽く視線を交えるが向こうも似た様なものらしい。「あの方が貴方に?」元々世話好きで、言うならばお節介な彼女だ。無関係な人とも何かしらの接点を持つこともあるだろう。その縁だろうか。
「可笑しいか。まああの頑固さの割に異様なフットワークの軽さだ。こっちも相当振り回されたがな」
発言が気に入らないわけではなかった。男はまるで全てを知っているかの様に喉で笑う。この男…一体何を知り何の目的でこの屋敷にやってきたのだろうか。もしくはお嬢様の事など一切関係のない、ただの殺し屋かもしれないが。それならば話が早い。男を殺すのみ。しかし真意の掴めないまま始末するのは我々にとって不利益なだけ。せめて目的を掴まなければ。後ろから隠しきれていない殺気が届いたので咳払いを一つ。まだ駄目だ。
「高杉様。残念ながらお嬢様は先の事件で入院中にございます故、本日はお会いする事が出来ません。しかし高杉様のご訪問は必ずお伝え致します」
彼女は未だ入院中。他者と引きあわせるわけにはいかない…その程で話を進める。が、均衡を崩したのは男の発言だった。先日…会った、だと?笑いながら男は言った。我々しか知り得ない事実を平然と言ってのけたのだ。抑えていたけれど表情に出てしまった。以前、彼女が誘拐されたという謎の脅迫文があり、港近くの倉庫街まで掃除(仕事)に行ったのは記憶に新しい。と言っても数ヶ月も前だが。あれから彼女の消息を追って色々と手を広げていたが、確信に繋がる情報にはたどり着けなかった。しかし目の前に座る男が、もしかすれば彼女の居場所を知る唯一の手掛かりかもしれないのだ。その事実から生まれた動揺から、思わず余裕が崩れてしまった。
「それでは高杉様はお嬢様の居場所をご存知なのですか。彼女は今何処で何を。そして…失礼ながらその腰の刀。廃刀令の敷かれたこのご時世ともすれば、それが何を意味するのか我々も存じています。貴方は一体!何の目的でここに!」
我ながら“らしくない”と思う。前の男は目を細めながら「質問は一つにしてくれ。一々答えるのも面倒なもんでな」気怠そうに腰かけたまま続ける。男の包帯は彼女が巻いたものであること、しかし肝心の居場所は知らないと言う。どう言う意味だろうか。彼女は少なからずこの男と一緒に居たということ…だがもう彼女は別の場所に言ってしまった?意味がわからないまま混乱していると、先に
が口走っていた。おまけに押し殺すことも忘れた殺気を放ちながら。
「ご察しの通り俺ァ表を出歩ける存在じゃねぇ。だが安心しな。この刀はここで抜きはしねーよ。そこの女が下手しなけりゃな」
「
」
動きかけの彼女を言葉で制する。もちろん後ろなんて見ずに…蔵人は高杉と名乗る男から視線が逸らせなかったこともあるのだが。武器に伸びかけの彼女の手が収まるのを待ってから会話を続ける「もう一つ、よろしいですか?」声を抑えながら伺うと、どうぞと言わんばかりに男が肩をすぼめた。
「目的は何です」
「挨拶に来たって言ったはずだ」
刀を持った攘夷浪士が、幕府側の人間の屋敷へ挨拶に訪れる事などありもしないだろう。絶対、何か意図があるのだろうが皆目見当がつかない。その時、ーピピピ と、通信端末が鳴った。「失礼」と断りを入れるも普段主人の客の前では絶対にしないであろう、堂々と通信を繋いだ。まっすぐ前を…男を見据えながら下手な動きを見逃さないように。
「私だ」
“蔵人様。先ほど敷地内のセンサーに生体反応がありましたがすぐに消えました。現在確認中ですが防犯カメラからは死角になっており、対象の姿は映っていません”
追って指示する旨を伝えて終了ボタンを押す。
と共有がてら内容をあえて聞かせた。どう反応するものか…しかし男はまるでそれすらも想定の範囲内かの様に無反応。やはり目的がわからない。侵入者の始末だろうか、部屋から出て行こうとする
を制止し、部屋に残るように伝える。建前上は家が壊れるからと言うのが理由だが納得はしないだろう。淑女に不相応な声で返される。これについては後で叱らなければ。「大人しくしていて下さい」含みを持たせて告げると蔵人は部屋を出た。執事は小走りに廊下を進む。
完璧な防犯体制、カメラに姿が映らない侵入者、同時期に現れた不審な客
正直なところ、疑念が生じたのだ。完璧な防犯体制なのにカメラに姿が映らない…と言うことはカメラの位置やセンサーの角度を熟知していると言うこと。それは裏組織の間者か、暗殺集団の襲撃?ならばこんな真昼間から仕掛けてこないだろう。相手が
ばりの好戦家でもない限り。彼自身も同僚の
も考える間も無く他人に恨まれる側。しかし金を払ってまでも殺してやりたいような恨みを買った覚えはない。仕事上、取りこぼしなく始末してきたはずなのだ。仮に恨みから暗殺を企てた者がいるとして、綿密に下調べをして侵入…にしてもお粗末すぎる。ならば誰が? この屋敷のことを熟知し、昼間に侵入し得る可能性がある人物。
「(まさか!?いや…そんなはずは!)」
脳裏に後ろ姿が浮かぶ…も頭を振って像を消した。確証はない。しかし否定できる要素もない。違う。彼女は違う。彼女ならば堂々と玄関から入ればいい。この屋敷の誰もが彼女を迎え入れる…そもそもここは彼女の家だ。誰も拒絶などしない。もし彼女だったとして…コソコソと侵入するならばそれはかどう言う意図があるのだろうか。それは知られたくないこと?招かれざる客、高杉晋助。彼が何か関係しているのだろうか。わからない。もし侵入を果たしたならばどこへ向かうのだろうか。使用人では知り得ない秘密の道(存在することは知っている)を使った行き先は?お金目当てではないだろう、金庫や宝物庫の可能性は消えた。
「(ご自身の部屋?)」
それ以外に浮かばない。長い廊下を進んでいると別の吹き抜けホールにたどり着く。非常事態だ階段など使っていられない、と男は上階の踊り場から飛び降りた。体全体を使って難なく着地すると中央警備室へたどり着く。奥に入ると非常事態に混乱する現場担当者の姿。「マスターキーを使う。貴方がたはモニターを監視し随時私に報告を」指示を出して、鍵庫から目的の鍵を取り出す。混乱していた現場も新たな彼の指示で、皆が奥の部屋でモニターを食い入るように見つめている。もし姿が映ったならば端末に連絡が来るだろう。鍵を手に入れた蔵人は、空になった主人の部屋に急いだ。
彼女の部屋。久しく向き合っていなかった現実が迎えてくれた。あの夜から主のいなくなった部屋はシンと静まり返り人の気配すら感じない。どこに隠れていようとも他人の気配を探るのには長けていた。つまり、ここにはいない。ならばどこに?
彼女“ではない”という可能性は脳内から削除されていた。端末を使い一度警備室に連絡を入れてみるも、カメラの映像には特に不審な点はないらしい。仕方がない。一度戻って、次は自分が中央警備室で指揮を取ろう。そうすれば少なからず証拠のような、確証につながるものにたどり着けるはずだ。元あったように鍵を閉めた。蔵人が警備室に戻ると、指示の通り皆が一方を食い入るように見つめているではないか。彼がこの部屋に入った事にも気づかないくらいに。正直、危ない。後で教育しなければと思いつつ鍵庫を開く。
「無い、だと」
それも先代当主である
賢人の部屋の鍵が。一つぽっかりと抜けた鍵庫。さっき彼がここにマスターキーを取りに来た時には、確かに全て揃っていた。高々10分弱、目を離した隙に…である。「誰か賢人様の部屋の鍵を知らないか!?」大声で叫ぶも、その場にいた皆が首を振った。「チッ…」似合わない舌打ちが出るほど苛立っていた。この状況で、先代主人の部屋の鍵を持ち出す人物なんて…物盗りでも暗殺者でも無いだろう。脳裏に浮かんだその人なのはわからない、でも…。マスターキーを握りしめたままの蔵人は
賢人の部屋へ全速力で向かった。
…
‥
恐る恐るドアノブを手に取る。本来ならば鍵がかかっているはずのその部屋は、鍵に阻まれることなくノブが最後まで下りきってしまった。心音が手を震わせているようだ。ゆっくり扉を開くと薄暗い部屋に自身の影が伸びた。扉の先は前室。次の扉から続く書斎に寝室、書庫にバスルーム。一人に割り振られているのは生活に困らない全てが揃っている…一つのマンションのような広い部屋だ。前室から書斎へ、人影も気配も見当たらない。しかし奥には寝室やら書斎、バスルームと幾つもの部屋が連なっている。どこかに潜んでいる可能性も否定できない。アクション映画さながら扉に背を預け一気に踏み込む。だがしかし、全ての部屋に人の気配も何かを触ったような跡も残されてはいない。元の書斎に戻る…と。
「…」
警備室から消えた鍵が机の上に残されていた。誰かが鍵を盗み、この部屋に入った事は間違いない事実だ。どうするべきか。あの怪しい客人に問いただすべきか。
が先走って手を出していないことを祈るばかりだ。通信端末が鳴る。警備室からの着信に通話ボタンを押した。
「私だ」
“大変です!先の不審な客人が玄関より退出しています!!現在、門へ向かっています”
「どう言うことですか!
は!?」
“お姿は見えません!”
「仕方がない…不審者は捨て置いて総員、警戒レベルを上げなさい!早急に敷地内の点検を!!応接間には私が行く!」
“承知しました!”
がまんまと獲物を逃がすはずはない。と言う事は彼女の身に何かがあったと言うこと。全速力で応接間に戻った彼の目にはソファーに横たわる
。その姿に再び動揺してしまった。慌てて駆け寄り意識を確認する…と、息はあるようだ。目立った外傷もない。急ぎ医者を呼び容体を診てもらうと、単に気を失っているとのことでひとまず安心した。彼女を医務室のベットに移し意識が回復するのを待つ。使用人総動員の点検で、現場からは続々と異常なしと報告が上がって来ている。…ますます不可解だ。謎の侵入者と招かれざる客。それが意味するもの。「ん…ったァ」下から声が聞こえた。
「良かった。目覚めましたか」
腹を押さえながら彼女は痛みに耐えている。それが落ち着いた頃に状況報告として侵入者の発見には至らなかったこと、高杉晋助は去ったこと、屋敷や部屋に入った異常がなかった事を告げた。結局、あの男の目的は掴めないままだ。余程悔しいのだろう…
があの表情をして唇を噛んでいる時は。
「高杉晋助…次会ったら、殺す」
「落ち着きなさい。あの男はおっしゃる通り中々の手練れ。簡単には殺れません。それに…貴女は接近戦はまだ苦手でしょう。それがこの結果…鍛練が必要ですね、貴女も私も。そして侵入者の件ですが、確証はありませんがもしかしたらもしかするかもしれません」
「それって…」
「何より情報が少なすぎます。こちらがわかるのは“高杉晋助”という名前だけ。どこで聞いたのでしょうか。覚えがあるのです」
任せて、と
は携帯を取り出しどこかに電話をかけている。しかし中々繋がらない。一度電話を切って、こめかみに血管を張らせながら再度かけ直した。表情が静かに固まる。
「もしもし。私だけど…そう、わ・た・し!やだ忘れちゃったのォ。私ととっつぁんの仲じゃない。ま、何でもいいけど」
“………”
「ちょっと知りたい事あるんだけど、犯罪者の情報流してよいいでしょ?別に減るもんでもないし」
“………”
「その尻に鉛玉ぶっ放されたい?え?何?…ゴリラの見合い?」
“………”
「それがどうしたって?ってオイ勝手に切ろうとすんなゴルァ」
“……”
話を進めるごとに声質と息遣いが荒くなっているのは気のせいではない。しかし今は目を瞑ろう。相手方から電話を切られたらしくマイクに向かって気が遠くなるような罵声を浴びせている。「誰ですか」
が頼る人物だ。興味はある。
「とっつぁんって呼んでる。本名は何だっけ?片栗粉?」
「松平片栗虎殿…警察庁長官ではありませんか!?」
「そんな偉かったっけ?にしても、とっつぁん後で〆るわ。何が一世一代のゴリラの見合いで忙しいよ。んなもん同じ檻に入れとけばいいだけでしょ」
は端末をベッド脇に置いた。まずは私たちの一敗だ。
三十七話の反対側。主人公視点と武装メイド視点、武装執事視点の三点からの考察。
20170724*星宮はちこ 裏語