レプリカ虚像乙女
 【第一章、飛翔 七話、咎人】


爆発まであと三分…いや二分と四十五秒。このまま塔を降りても、安全域には間に合わずに崩れてきた塔に巻き込まれる。そして鬼兵隊の船もあの位置なら爆破、あるいは爆風に巻き込まれてしまうだろう。さあ…どうする。どうすれば皆、生き残れる?あの男は自棄を起こして爆弾のタイマーを押した。だが、もし最初の段階で爆弾を起動させていたらどうなっていたであろうか。

考えろ。

まず自分の逃げる手段は確保しているはずだ。あの男は用意周到だから間違いない。ここから逃げる手段…となれば空だろうか。しかし人は鳥のように飛べはしないので、飛行艇に乗る以外は考えられない。だが鬼兵隊の船以外にそれらしき船は見当たらない。考えろ。北の位置にあるこの塔。江戸では随分低い建物になってしまったが…この屋敷では一番高い建物だ。ここから安全な場所まで三分で逃げられる手段。上から下へ。

考えろ。

もし、あの離れた屋敷に渡れるなら、あそこならギリギリ爆破の衝撃は届かないか軽微なもの。この塔から…あの屋敷へ。上から下へ。


“お前はターザンか?”


ああ…さっき坂田さんが言っていたじゃないか。もし、この塔とあの屋敷を移動できる手段があるなら…高低差のある二点を繋いで間を渡ればわざわざ降りなくてもいい。釣鐘の金具を見れば暗闇に紛れて縄が張られていた。ご丁寧に滑車らしきものも見える。これだ。あの男はこれを使ってここから逃げるつもりだったのだろう。そして、あの男はきっと屋敷から塔へ同じ手段を使って渡ってきたのだ。鬼兵隊の船からは縄梯子が吊られ、塔の上の浪士がそれを抑えている。来島が来るのを待っているのだろう。坂田さんに鬼兵隊。彼らが無事ここを離れられるなら塔は爆発しても構わない。
私は覚悟した。この男が生きている限り私はずっと追われる。ならどうすれば良いって?全部終わらせる
にはこの男を…殺さなければ。父と母を奪い、私の夢さえも奪おうとしているこの男を。助けられるだけでなく誰かを救いたいと思い医者を目指した私が人殺しなんて…なんて滑稽なのだろうか。

殺らなければ殺られる。

弱肉強食こそ自然の摂理。それは…きっと“命の選択”だ。私は全部要らないと言った。この男も…綺麗な私自身も。だからもう…いいんだ。足元に転がっていた来島の黒い拳銃を拾い上げた。弾はご丁寧にあと一発。


「坂田さん!残りはあと一分五十二秒。早く後ろにある、釣鐘の根元の滑車で逃げてください!!」
「オイッ!お前はどうすんだよ!!!」
「私は大丈夫。手段はありますから。これは貴方の“主”からの命令です。今回の依頼、色々と御手間を取らせて申し訳ございませんでした。そして…ありがとう。貴方のその綺麗な瞳は忘れないわ」
「オイ!!俺の依頼はお前の命を守ることだぞ!!勝手に依頼しといて何勝手に死のうとしてんだ!」

「フフ…手段はあるって言ったじゃないですか。それに、私がいなくなっても貴方がたに責任を押し付けられないよう書類は書きました。だから安心して下さい。私の名前…です。またいつかどこかで会えたら是非“”と呼んでくださいね」


もうきっと二度と会うことは無いのかもしれない。手段はあるって言ったけど、嘘。真っ赤なウソ。私は覚悟したのだ。例え復讐の対価が自分の命だとしても厭わない。


「来島さん…早く逃げてください。あとコレ、借りますね!」


爆発まで残り一分三十一秒。
私は銃口を男に向けた。引き金を引けば全部終わる。やっと父と母と妹たちの元に行けるのだ。だから怖くはない。怖くない。なのに手元が震えているのは何故だろう。縄梯子を登る浪士が必死に来島の名を叫んでいる。でも彼女は腕を押さえながら一歩も動こうとはしていない。そして坂田さんはどうやらまだ私を連れて行こうとしているようだ。

「坂田さん!早く行って下さいってば!!!」
「おい…馬鹿な弔い合戦は止めろ。んなモン何も生まねえよ…ソイツはとっくに生きちゃいねぇ。死んでんだよ魂が!!此処から逃げ延びる策はあるんだよなァ!?ったく、頑固で我儘でお嬢様ってのはどんでもねーモンだな。お前がそこまで言うならこれから俺の事“銀さん”って呼べよ」
「まったく貴方がいると手元が狂うわ。私の使用人に伝えて“ありがとう”って。銀さん…これが最後の依頼です」

私は笑った。残り一分十五秒。 爆発まで一分を切れば坂田さんも来島さんもきっと爆発から逃れられない。早く行ってと言うのが切なる願いだった。隠されていた滑車を両手に執事姿の男は塔の角から今にも飛び出そうとしている。そうだ、それでいいのだ。鬼兵隊の船からはまるで漁をするような大きな網が投げられ、立ったまま動かない来島の体を包み込んだ。やり方は随分荒いがどうやらこのまま連れて行こうとしているらしい。何故彼女は直ぐに行かなかったのだろう。まあいいか。



「さようなら…怜一郎。私の家族は皆天国に行ったけど、どうやら私と貴方は地獄に堕ちそうよ。最悪ね。ここまで来てアンタなんかと一緒なんて虫唾が走るわ」



やっぱり手元が震えている。興奮からか肩を大きく震わせ息をしていた。おまけに鼓動も速い。このまま引き金を引けばいい。これで終わるんだ。意を決して私は目蓋を閉じ…引き金を引いた。さようなら私。さようなら思い出たち。さようなら。

─ダンッ ─ダンッ

最後の一発。なのに銃声は二発聞こえた。目蓋を開くと男が倒れていた。銃声がした方には縄の間から器用に銃を構える来島また子の姿。もう一発は彼女が撃ったのだ。男の最期を見届け鼻で笑ったと同時に、彼女は身動きのとりにくい網の中で必死に私に近づき…手を伸ばした。


「フン。このままここで死ぬなんて許さないッス。せっかくウチ等が助けた命無駄にすんな!アンタもちょっとは自分の意思で国や人や何かを…自分を変えてみな!話はそれからだ。早く手を取れ!このままじゃ皆巻き込まれるんスからね」


“どうか自分を見失わずに信じた道を歩むんだ” 頭の中で父の言葉が木霊した。私は…死にたくはない。生きていたい。医者として働きたい。そしてあの人に会いたい。“死”の覚悟を決めたのに…揺らいでしまった。違う、生きたいと言う覚悟が決まってしまっただけだ。せめて生きて何かを成し遂げなければという覚悟が。意を決して私は来島の手を取った。手だけの力では彼女に私は支えられないだろう。来島は私を引き寄せると縄に足と手を絡ませるように指示した。彼女は網の中なので私は外に必死に掴まるしかない。

「先輩ィイイイイ!!とっとと行くッスよ!!」

彼女がそう叫べば体がフワッと浮遊した。最初はゆっくりであったが突如急激な力が加わり、グッと持ち上げられたようだ。塔の屋上が離れていく。滑車を滑る銀さんの後姿を見つけた。呼んだわけでもないのに振り返った彼と視線が合う。顔を覆う煩わしさに、今まで付けてきた仮面を外して適当に放り投げる。そう言えばまだ彼に素顔は見せていなかったっけ。メイドとしてなら会っているが覚えていてくれただろうか。とりあえず手を振った。彼は目を見開いた後確かにニヤリと笑っていた。次に会う機会があるなら存分に“銀さん”って呼び立ててあげよう。そして真選組の幹部が建屋の中を動き回っているのが見えた。彼らにも申し訳ないことをしてしまった。そう言えば爆破まであと何秒だっけ?

─バァアアン 強烈な破裂音と共に塔の上部と底部から火が上がっていた。古いレンガ造りの塔はあっという間に崩れかかり火に包まれているではないか。本当の意味でのお別れだ。過去の思い出と忌まわしきあの男と。衝撃は船にも伝わったらしく衝撃波が届くと同時に大きく揺れた。長いドレスの裾がバタバタとはためいている。は隠していた賢者の石を取り出した。使い道のないガラクタ。そして不幸の石。目近で初めて見たらしい来島が「その石っころが例の石?」と聞いていたので笑って頷いておいた。しかし秘宝には見えないその石に唸りながらも納得しかねている様子だ。彼女の反応は正解だ。大体がその反応をする。せめてもの餞別だと、私はそれを燃え盛る塔の屋上に向かって渾身の力を込めて放り投げた!呪いの石ともおさらばだ。

「って、エェエエエ!!!その石秘宝なんでしょ!??何でそんなゴミみたいに投げちゃってんの?価値あるんでしょ?何なの馬鹿なんスか?」
「いや…あれ…」

網越しに来島が混乱し暴れていた。こっちは手足に絡んだ網だけが身体を支えているのでそうあまり動かないでいてもらいたいものだ。滑り落ちたら多分即死。ここで死んでしまっては成仏しきれない。来島を落ち着かせるように私は真実を語った。



「あれ偽物なんですよ。河原でテキトーに拾った石。父は確かに賢者の石を生み出した…はずなんです。でも父の死後、研究所の金庫には賢者の石の研究データはあれども肝心の石はなかった。ご丁寧に入れ物っぽいモノはあったんですけどね。でもそれもきっとフェイクです。値札貼ったままだったし。データも実験途中の物で役立たないやつばっかで」



結局、賢者の石は見つからなかった。しかし建前上、物としての“賢者の石”が必要だったわけで。遊び場として誰よりも研究所に詳しかった幼いは誰にもその事実を言えずに、河原で見つけたどこにでもありそうでそこにしかなかった石を代わりの“賢者の石”にしたのだ。テキトーに選んだのに例の値札付き入れ物(勿論値札は剥がした)にピッタリだった。だからあれはガラクタで価値がないのだ。むしろの胸にあるレプリカ品の方が金をかけて作ってもらったので、河原の石(タダ)よりは価値があるかもしれない。

「あれって偽物ォオ!?ってか河原の石ってヤバくね?そんなの皆欲しがってたの?」

パニックを起こしているような来島さんは更に暴れている。だからこれ以上動かないで…(略)。 建屋を通り過ぎ様に屋上を見れば、倒れた刺客の傍らにと蔵人が並んで立っていた。二人とも仮面を外して清々しく笑っている。に至っては衣装ではなくいつものメイドの格好をしているではないか。当初の計画とは随分変わってしまったが、このままここを離れられるならこのままでもいい。この家にいるべきも賢者の石も失った。そしてあの男は私が殺した。この咎は私が負い続けるもの。それを背負ってまで生きることを選択したのだ。せめて信じる道を進み続けるしかない。それは彼らも解ってくれるだろうか。



「ありがとー!!」



声を張り上げてお礼の言葉を伝えた。不安定ながら手を振れば二人も両手を振ってくれた。そうしている間にも飛行艇は高度と速度を上げ屋敷が離れていく。まるで飛んでいるみたいだ。それはもう鳥になったみたいな浮遊感。こんな感覚滅多に味わえないだろう。

「って煩いッスよ!!それにこんな不安定な所で暴れないで貰いたいんスけど」
「あら?それはお互い様です」
「ハァ?ってかアンタいつまでそこにいるんスか?」

安全なところに行くまでと言えば「ああ、確かにそーッスね」と納得してもらえたらしい。多分。と言うより他の浪士たちは上の飛行艇に辿り着いたらしいが、私を含め幹部であるはずの彼女はこの吊られたままのようだ。そっちの方が可笑しくはないだろうか。まるで捕縛されたみたいだ。そう伝えるとさっきの発言を忘れ途端に来島は暴れ出す。だからこれ以上…(略)



「変態ー!!いつまでこのままにする気ッスかァア!?」
 
 “先輩です。やれやれ…舞踏会に参加したと思えば、淑女の嗜み一つ期待した私が馬鹿でした”

「馬鹿なのは認めてやるから、とっとと引き揚げろォオオ!!!」

 “このまま上空を行くのも目立ちますからね。仕方がありませんが巻き上げ開始です”


やっぱり特徴的な喋り方だ。その男が巻き上げを指示したと同時に機械音と共に網が上がっていく。視線がぐんぐん上がり甲板のある引き上げ位置が見えてくる。小型船なのでそう船員はいないのだろう。それでも甲板が近づくほどに人が動く気配が感じられる。さっき縄梯子で上って行った浪士が数人、私達を見下ろしながら縄を引っ張っているようだ。あともう少し。浪士の一人に手を伸ばされて、必死にそれを掴む。男と女では力がこうも違うのか、あっという間に私は甲板に引き上げられた。追って来島さんも網ごと引き上げられる。

「また子さん、猪女に相応しく好き放題暴れたようですね…っておや?貴女は?」

スピーカー越しに聞こえた声のままの男性が現れた。この人も鬼兵隊の一員なのだろう。しかしこの人…何とも気味の悪い仮面を被っているのだ。こんなデザインの仮面は見たことがない。どう反応すればいいのだろう。もしやこの方はあの「猫神家の一族」の一員のように人に見せられないような怪我をしているのかもしれない。突っ込むのは野暮だろうか?


「あの…私はと申します。色々ありまして来島さんに助けられました」
「ほう。私は天才策略家の武市変平太と申します。お見知りおきを。しかしあのまた子さんが人助けとはこれまた珍しい。明日は雨ではなく槍が降りますな」
「どーゆー意味ッスか!ってかまだそのキモい仮面付けてんの。見てられないんでとっとと取っもらえないッスすか」
「そう言えば貴女、この私手製のあの仮面はどうしたのです?」


あ、この不気味な仮面…この人の手製だったんだ。なるほど。作者の怨念が乗り移…。いやこれ以上はなにも言わないでおこう。

「あーあれ、どっかのじゃじゃ馬女に撃ち抜かれたッス。ったくあの黒髪ポニーテール女。狙撃は中々の腕だったってことはきっとプロの殺し屋。あと一歩の所で仕留めそこねたッス」
「ほう。“馬”対“猪”とは中々面白い」
「誰が猪ッスかァ!?」

だ。きっと…いや間違いなくだ。彼女と殺り合えるなら来島さんの実力は折り紙付きということだ。騒ぎ立てる来島の腕からは先ほど負傷した位置から血が零れているのが見えた。ハンカチはもう血塗れではないか。急いで傷の手当てを申し出る。しかし彼女はそう大事にはしていないようで「そんなの後でもいいっしょ」と殆ど気にしていないようだった。だが職業病だろうか。そんな彼女を放っておけるはずもなく、周りにいた浪士の一人に例のトランク(網と一緒に全て巻き上げられていた)の一つを持ってきてもらうように頼んだ。中には簡易的ではあるが処置できる便利品がいくつか入っている。必用なものを取り出し大まかに彼女の手当てを済ませた。

「ふーん。アンタ意外と器用なんスね」
「“意外と”は余計ですよ。私、こう見えても医師なんで」

それに簡易的な消毒は免許関係なく誰だってこなせるものだろう。多少の慣れ不慣れはあるかもしれないが。例の仮面男…いつの間にか仮面を取っていた男の視線を感じては目線を上げた。あ、仮面の下も何だか表情が掴めないくらい不気味かも。特に目。


「で、また子さん。この女性を一体どうするつもりですか?」
「先輩のロリには該当しないんじゃないんスか」
「そーじゃなくて!大体ロリコンではありません。子供好きのフェミニストです!私が言いたいのは、鬼兵隊の船に一般人連れ込んで、これからどうするつもりなのかということです」
「あー。アンタ逃げ道決まってんでしょ?適当な所で降ろすんで後は頑張って逃げればいいから」
「だからこれはタクシーじゃねェよ」


私には決めたことがある。
さっき全部捨ててきた。そんな私がこれから生きるためにはどうすれば良いのか。どうすれば自分という存在を活かせることが出来るのか。誰かの為に役立つことが出来るのか。やっぱり私には医者の道を歩むことしかできない。そうじゃないと意味がないのだ。



「鬼兵隊の皆さん。お願いです!私を医者として雇って下さい!」



深々と頭を下げた。私が踏み込むのはきっと蛇の道なのだろう。それでも構わなかった。ただ目の前の存在の役に立ちたいのだ。それが来島であり鬼兵隊だったに過ぎない。彼女の様な銃捌きも無ければ体術もない。でも私には医学と科学の知識がある。彼らがそれを必要とする機会もあるはずだ。きっと役立ててみせる。役立ってみせる。


「止めときな!鬼兵隊も攘夷活動もアンタが思っているほど簡単なモンじゃない。大体、ここで何をするんスか。銃も真面に扱えない、人殺しも出来ない、思想も無い女が鬼兵隊で役立つと思ってんスか?言っとくけど医者は既に鬼兵隊に足りてる。今のアンタなんて盾にすらなんないよ」


頭上から降り注いだのはそんな言葉。視界一杯に広がった船の床材。彼女の影は動かなかったが、その隣の影が揺らいだ。


「確かに鬼兵隊にも医療班は存在します。昨今の人手不足で、人員…特に医者が足りないのもまた事実。まあ、いいんじゃないですか」
「先輩ィイ!何、事実言っちゃってんスか!この女を表世界に返してやる最後のチャンスなんスよ!?」
「貴女も似合わず随分優しい面があるのですね。明日は本当に槍が降るではありませんか」
「とりあえず適当な所でとっとと降りろ!この世界に踏み入れずともアンタには進むべき道があるはずだ。そしていつかウチ等鬼兵隊が世界をぶっ壊す様見てればいい」


ここでハイそうですかと引くわけにはいかない。この船から降ろされたら私が戻るべき世界は前と何も変わらないのだろう。町医者ではもうきっと満足できない。私は彼らの役に立ちたいのだ。礼の姿勢を正し、彼らの目を見ながら一言。

「お願いです!」
「頼まれても無理なもんは無理ッスよ」
「まあまあお二人とも。さんでしたか…貴女の望みはわかりました。しかしこれは我々の一存では決められません。組織とはそういうモノなのはお分かりでしょう。これから鬼兵隊の船に行き、或る御方に会って頂きます。その人が首を縦に振らない限り我々は貴女を受け入れられない。しかし…」

淡々と男は言ってのけた。彼ら鬼兵隊の船に行くということはつまり後戻りは出来ないということ。その人が首を縦に振らなかった場合、生きては帰れないのだ。生か死か。あるのはそれだけ。もしここで断るなら適当な場所で私を解放し、以降の足取りは追わないことを約束するとも言われた。
だが私はもう全てを捨てたではないか。ついでにあの男も殺した。顧みるモノは何もない。あるのはこの身一つ。後は守りたいものが出来ればいい。それが鬼兵隊かこの世界か、正直何でもよかった。



「私を…船に連れて行ってください」
「アンタ正気ッスか!?」

「人殺しは出来ないかもしれません。でも、怪我をした皆さんを治療することは出来ますから。もし本当に私が役立たずだったら…惜しいですが、斬り捨ててください。そうならないよう努力します!」

「と言うことで、また子さん。彼女を連れてきた責任は貴女にあります。最後まで面倒見るんですよ」
「何拾ってきた子犬みたいなこと言っちゃってんスかァ!?」



鬼兵隊の二人が揃えばまるで漫才のように騒がしいものだ。他の面々は彼らが幹部だから口を挟まないのだろうが、まるでいつものことだ気にしてられないという表情をしていた。多分合っているのだろう。二人の漫才モドキがずっと続いている。適当な所で私は二人の間に割って入った。

「コレ返しておきますね。弾使っちゃったんで空ですけどごめんなさい」

差し出したのはリボルバー式拳銃。勝手に借りたまま未だ私が持っていたのだ。見た目以上に重く、照準の合わせにくいそれを二丁も自由に使いこなせるなんて。凄いの一言に尽きる。何も言わずに彼女は拳銃を受け取った。



「最後に一言だけ言ってやるよ。アンタの銃の腕は初心者以下。まず銃口が真っ直ぐ向いていない。だからさっき撃った弾も外れていた。残念だけどあの男を仕留めたのは…私」


だから私は殺していないと言いたいらしい。それが本当でも嘘でもどうでもよかった。私はあの男に銃口を向け引き金を引いた。その事実さえあればいいのだ。来島さんは本当に…優しい人だ。
小型船は街を離れ湾岸沿いの倉庫街を抜け、外れの港に向かっていた。


一章クライマックス後編。彼女が選んだのは“死”ではなく“生”。次回、結びの後日談(多少時間軸が前後する予定) そして自称天才策略家の言う“或る御方”とは…
20160716*星宮はちこ   裏語