レプリカ虚像乙女
 【第一章、飛翔 八話、もう鳥籠には何もいない】


事件から数日後。家では度重なる現場検証が行われていた。塔の爆破により事件は隠し通せる規模ではなくなり、翌日の新聞やニュースで速報として伝えられた。

“友好式典爆破テロ発生。大使は無事。家当主、長女行方不明”

日に日に明るみになるテロの全貌に江戸市民は関心を持っていたがある時を境にそれらの情報は一切報じられなくなってしまった。裏で圧力が加わったのは言うまでもない。最後のニュースは何だったであろうか? “塔より一遺体発見。身元確認を急ぐ。” か “行方不明の長女、重体で発見” であったか。それすらもわからなくなっていた。真選組は今回のテロ行為を防げなかった責任を取って、警察庁長官の松平片栗虎と真選組局長近藤勲には三日間の自宅謹慎が命じられたと言う。しかし本来なら責任を取って切腹となるはずであったが、三日間の自宅謹慎に留まったのもまた何かの圧力であろうか。ちなみに銀時たち万事屋への責任問題はその一切が不問になった。
塔から見つかった遺体は早々に当主の怜一郎のものであると確認された。死因は銃創による失血死。見つかった銃弾の線条痕から、鬼兵隊が使用している銃から発砲されたものであることが分かっている。以上よりテロの首謀者は鬼兵隊であると断定された。発見された長女は重体で即集中医療室に入り、絶対安静と他者の面会を禁じられているという。



「ったく。何がハイリスクハイリターンだ。上手い話には裏があるってか?コノヤロー」



事務所兼自宅のソファーで新聞を広げた銀時は例の事件の記事を読みながら鼻をほじっている。確かにあの女は生きていた。塔と建屋を移動している時に飛行する船から吊るされた網に捕まり、こちらに向かって手を振る姿を見た。それはそもそも彼女…の計画通りの行動だったのか否か。真実は誰にもわからない。新八も神楽も今回の一件ではちょっとは応えたらしく昨日までは大人しくしていたくらいだ。

─ピンポーン♪ 聞きなれたインターホンが鳴った。新聞か?或いは万事屋の客か。向かいに座っていた新八が応対の為に玄関に歩いて行く。引き戸の扉が開く音も驚く彼の声も…もう慣れた。って、驚く声?

「失礼します」
「お邪魔致します」

見覚えのあるホスト面とメイド服はこの家にあまりにも不釣り合いだった。彼らは銀時たちの前に座ると、静かに封筒を差し出したのだ。受け取って中を見れば以前貰った小切手と同じものが一枚。これが残りの報酬と言うことだろう。しかし舐められたものだ。銀時たちはある女の計画の為に、駒として使われたに過ぎない。


「要らねーよこんな大金。ったく、アンタ等にはまんまと嵌められたぜ」


何故だろう心に広がる霧は中々消えなかった。銀時の言葉を聞いて使用人たちは諦めた様にゆっくりと視線を下げる。どうしてそんな表情をされるのかもわからない。塔の屋上では確かにこう言った。



「ありがとうってよ。最後の依頼だ伝えろって。お嬢様ってのは自分勝手でいけねーな」



確かに彼女はそこで死を覚悟していた。その目は今でも忘れられない。だが滑車で滑り降りている時、振り返ると彼女は空にいた。いつの間にか塔から脱出していたのだ。とんだフェイクを食らわされてものだ。彼女は確かに生きている。そして、はどっかの病院の集中治療室になんかじゃ留まって居られないような女だ。使用人たちは銀時に語った。今回の事件で、の存在を表面上消したという。彼女を死亡扱いにも行方不明状態にもしなかった。だから例の病院の集中治療室には本物はいないらしい。いっそ死亡扱いにすれば、追われることも探されることも…重症状態を偽り続けることもなかっただろうに。

物騒メイド兼偽お嬢様ことは、銀時が伝えた彼女の言葉を聞いて優しく笑っていた。会場で見せたあの狩人のような目は一切感じられない。まじまじと顔を見て見ると中々可愛い顔をしているものだ。だがあの銃を持った時の豹変ぶりを考えたらおっかないの一言。女って怖ェーな。


「色々とお世話になりました。本物のはきっとどこかで生きているでしょう」
「これは是非お受け取りください」


彼らはまだあの家に留まり続けるらしい。これから自由に生きる道もあるのに、主のいない空の家を守り続けると言う。それに何の意味があるのか。


「確かに、彼女はもう戻ってこない。は全てを捨てました。私達はそれを拾っただけ。あの子の思い出を守ることくらいしか私達には出来ませんから」


だから彼らはあの家に留まるという。

「ふーん。めんどくせーな」
「何でも良いので取り合えずこれ受け取ってくれます?」
「断る」

机の上、封筒に互いが手を付けた状態で静かな攻防が始まる。ニヤニヤと笑っているけどこのねーちゃん心底笑っていないのだ。封筒がグニャリと曲がっている。
「なら、これなら如何でしょう?」と、ホストの言うことにはこれは新たな依頼だと。どこにいるかもわからない主を“守ってほしい”というのだ。無理じゃね? どこにいるかもわからない人を見つけると言う依頼は受けたことがあるが。


「どこにいるかもわからない何をしているかもわからない“主”を見守って頂ければいいのです。勿論、わざわざ探し出すなどしていただかなくても結構です。またいつかどこかで出会えるでしょう」
「生きている限り、ね」
「…」


次に会ったらとりあえず“”と呼んで、説教だろう。どれほど面倒な仕事だったか…言い負かしてやらないと気が済まない。


「その依頼乗った!だが、報酬は後でいいゼ」

「坂田様…貴方はやはり可笑しな方だ」
「まあ私に言わせりゃアホですね」

「ってオイ!今アホって目の前で言ったよね!?」
「さぁ?何の事でしょうか」
「何とぼけてんだァ!」

クスクス笑いながら使用人たちは席を立った。最後に、世話になった礼だからいつでもお茶を飲みに来てくれだの、困ったときは力を貸すだの言って帰って行った。どこでどう生きているかもわからない女なんて星の数といるのに、銀時は彼女の手を振る姿が目蓋に焼き付いて離れなかった。


一章、飛翔 【完】

後日談。あの夜の続きは第二章にて
20160717*星宮はちこ   裏語