レプリカ虚像乙女
 【第三章、紅桜 二十五話、花葬】


揺れる船内には逃げ延びた鬼兵隊の隊士の姿があった。ある者は壁にもたれ掛り、ある者は床に横たわっている。別の攘夷組織に襲撃され、途中から天人の応援が入ったものの鬼兵隊の人的被害は甚大だった。半分までとはいかないだろうが頭数を見ても三分の一ほどが船と共に沈んだのだろう。応急処置を施された隊士の合間を縫うように、高杉さんを始めとする幹部が見張りの為か隅に佇む天人の元へと歩いて行く。私は船内に戻った彼らの一番最後に付いて歩いていた。ざっと見渡してみても酷い有り様だ。しかし、刀で斬られたであろう血塗れの隊士も十数人ほどいるが、大抵の怪我の程度はそこまで重症ではなさそうだ。少なくとも意識はある。周囲をキョロキョロと伺っていると、視界の隅から近寄ってくる人影を捉えた。

君!!!」
「久坂さん!?」

聞き覚えのある声で名を呼ばれて大層驚いた。その人と別れたのはいつだったであろうか。いくら一日の中の出来事とは言えども、遠い昔のことのように思えてくる。それ位に…今日は事件がありすぎたのだ。

「君が無事で良かった!あれから医務室に戻ってみても、もぬけの殻で暫く探し回ってたんだよ!退避した隊士の応急処置は一応済ませてあるが見た通り状況は芳しくない。備品も薬も足りていないんだ。一緒に手伝ってくれるかい」
「久坂さんも…無事で良かった。勿論、これからが私のお仕事ですから」

久坂さんの前に立ち止まっていると、先に進んでいた幹部の中からまた子さんの「あー!!」という叫び声が響いてきた。何事だろうかと私達船医組は顔を向けた。


「久坂さんにサン!隊士の治療も大切なんスけど、それより何より晋助様の腹の傷の手当てを最優先して下さいッス!」
「何!総督が負傷しただと!?それは一大事だ」


高杉さんが負傷した…その事実が心を打つ。
また子さんと久坂さんがやり取りをしている間にも、高杉さんと万斉さん武市さんの三人は後ろの騒ぎを気にも留めずに進む。天人の前まで辿り着くとようやく足を止め、高杉さんがチラリと此方側に顔を向けた。「掠り傷だ。治療はいらねー」と言葉を掛ければ、また子さんも久坂さんまでも口を閉ざした。その言葉を聞いて二人が無言になったのと同時に私は高杉さんの元へと駆け寄った。天人と高杉さんの間に割って入る。「失礼します」と言うと返答も聞かずに目の前に立つ高杉さんの重なった衿部分を開いた。いつもから緩く着付けられていたそこは、私の手によって大きく開かれ、腹の上には浅いながらもまるで切腹でもしたかのような切り傷が一つ。向かって左から右に伸びていた。滲んだ血が乾いている。


「邪魔だ。退け」
「嫌です。そう深くないなら消毒だけでもしとかないと…化膿したら大変です。少し時間を下さい」


横にいる万斉さんに武市さんも、後ろに居るまた子さんも口を閉ざしてジッとこちらを見ている。他に治療が必要な隊士もたくさんいるだろうが、この程度の切傷でも手当てせずに放置していれば途端に酷くなる。
肝心なのは素早く正しい処置だ。ここにある引き上げてきた備品だけでは鬼兵隊の隊士全てを治療するのに足りないだろう。轟々と低いエンジン音を響かせるこの宇宙船は止まる気配を見せない。つまりは何処か遠くへ…恐らく行き先は宇宙。備品を買い足すことも叶わないのだ。高杉さんに向き合っていた私はクルリと体を反転させ、見張りか迎えかわからない天人に向き合った。ジッと目が合った瞬間に相手の目蓋がピクリと反応したのがわかる。



「お忙しい所申し訳ございません。ご覧の通り、鬼兵隊総督を処置の為少しお借りします。ついでに医務室と医薬品、備品類も使用させていただけないでしょうか」
「…」



このまま負傷した高杉さんを天人の元に行かせるわけにはいかない。次に戻ってくるのはいつになるだろうか。少なくともさっきみたいに「いらねー」と言って治療しないのは目に見えている。つまり対処するなら今このタイミングしかない。私が頭を下げても、前に立ちすくむ天人は動揺したままのように見える。あ、そうだ。高杉さんのが終わったら他の隊士にも使わせてもらおう。


「クックック船医サマにそー言われたら仕方あるめー。万斉、後で交流する」
「うわっ!!」


突然高杉さんに手首を握られて体ごと引っ張られた。体勢を崩すもそのまま彼に引かれる。すれ違い様に「医務室は突き当り右だ」と天人が口を開いた。万斉さんのため息が追って聞こえた後、振り返った私には「晋助も困ったものでござる」と肩を竦めながらも笑う彼の姿。開いた自動扉が閉まると同時に全部見えなくなってしまった。
引っ張られるまま静かな廊下を進む。何だかこの展開…“手を掴まれて引っ張られる”的なのが多いような気がする。「高杉さん?」と声を掛けても彼は無言のまま。長い廊下の突き当たりを右に進むと暫くしてそれらしき部屋が見えた。在室の確認もせずに彼は私を引き連れてその中に入り込んだ。誰もいない無人のそこは、明りが点くと相当広い空間であることが分かる。器具や薬品が整理されずに乱雑に置かれていたのが目に入り…気になって仕方がないけれど。部屋の真ん中まで来たところで高杉さんが止まった。


「高杉さん?」
「10分くれてやらァ。とっとと済ませろ」


彼は鬼兵隊総督なのだからこの船でこなす重要な任務もあるのだろう。時間の無駄は省き彼の処置に専念する…私は頷いた。適当なベッドに座る様に伝えて、乱雑な薬品類から目当てのモノを探す。頻度の高いものだ、奥には仕舞われていないだろう。ラベルが滲み中身不明な物には触らず、手前に置かれた幾つかの瓶を確認すると消毒液らしきものが直ぐに見つかった。新しい綿球を浸し右手には薬瓶、左手にはピンセット。準備万端だ。高杉さんは大人しくベッドにもたれるように座っていた。その姿すらモデルの様だ。色男って凄い。薬瓶だけを近くの台に置き、再び高杉さんの襟元を開く。

「…」

お互いに無言。しかし…その、見えてしまうので仕方がないのだが、高杉さんってパッと見もっと線の細いイメージだったけれど意外と筋肉質だったりする。何度か抱きかかえられていたから知っていたけど。実物を前にして再認識させられた。腹筋も割れているし胸板だって厚いし。

「(集中しろ!作業に集中しろ私!)」

意識を前に向ける為に頭を振うと、ピンセットで綿球を掴み傷口の周囲から撫でていく。固まった血が消毒液に溶けだし直ぐに赤く染まった。二つ三つと綿球が染まる。


「痛ェ」
「あの…ごめんなさい」


消毒液が完全に塞がっていない傷口に沁みたようだ。血を拭い患部を殺菌する。広がっていた衿部分が戻りそうになって慌てて手で押さえる。私は彼の片手で着物を押さえながら消毒をしていた。バサリと片腕の分だけ着物が落ちると上半身が殆ど露わになる。突然現れた半裸体に私は固まった。

「オイ、どーやがった!惚けやがって」
「あっ!」

腕を引かれた拍子に、反対側の手で持っていたはずのピンセットが金属音を立てて転がった。医務室のベッドの上で私の視界は高杉さんの顔とその背後にある天井を映している。首から肩、胸に腹まで露わになった男の下で体が硬直する。上に被さった彼が面白おかしそうに声を立てて笑っている。


「たか…す…ぎ…さん?」
「そんなに固まるな。まさか期待でもしてたのかよ」
「違います…。まだ消毒が…」


まだ消毒の途中で患部はそのまま。包帯もガーゼも台の上に転がっている。この状況下で冷静さを取り戻そうとしたけれど、空いていた彼の腕が逃げ道を塞ぎ、遂にはそこから動けなくなってしまった。

「んなもん後で幾らでも出来んだろ。今はこの状況に意識を集中しろ」
「待って!そ、そんなことしても…また子さんが悲しみますよ!大体そんな、私が」
「ア?来島がどーしたって」
「彼女を裏切るつもりですか」

そう言葉をかけると高杉さんの表情が変わった。


「誰に何を吹き込まれたが知らねーが。お前ェが想像しているこったァねーよ。来島は鬼兵隊の幹部でしかない。奴の銃撃の腕は認めるがな」
「二人はその、恋仲では?」
「誰だ。んな出鱈目言った奴は」
「…」


高杉さんと来島さんは恋仲だと思っていたけれど、どうやら違うらしい。あれ?それじゃあ散々彼女が「晋助様、晋助様」と言っていたのは何だったのだろうか。高杉さんに対する憧れか或いは一方通行か?恐らく後者だろうと思われるが。「もういいだろ。続きだ…」彼の低い囁きが聞こえたと同時に、ゆっくりと顔を寄せられる。私の高杉さんに対する思いはただ憧れだと思っていた。憧れということにしていた。二人が恋仲で無いのなら…先ずは彼の気持ちが知りたい。こんな時にこんな場所だけど。此処まで来てからかわれているのならば最低なだけだ。その本心を知るまでは…この状況に納得できないし、甘んじてはいけないのだ。あんな戦闘があった後、突然現れた天人の船の中でこんな…。横たわりながらも私は前を見上げた。


「お願い…私の問いに答えて下さい。どうして私にこんなことを」


二人の視線が交わって離れない。彼と初めて会った時から感じていた違和感があった。船の上で見せたあの表情、壊れ物に触れる様な優しい指先、愛しむその声音も…きっと初めてのものではなく、まるで遠い記憶のどこかで経験済みかのような錯覚を覚えるものだった。私には残念ながらその記憶が無いけれど…彼にはあるのだろうか。私か、或いは私ではない私に似た誰かに出会い、愛しんだ記憶が。
動かないままの私達。彼の唇が僅かに動き…声にならない声で誰かの名を呟いた。



「思った通りにござる。ただの手当てにしては遅いと思い様子を見に来てみれば、晋助…ここは春雨の艦隊でござるぞ」
「万斉、後にしろ」
「此処が鬼兵隊の船ならば目を瞑らなくもないが、流石に相手方の船では見過ごすわけにはゆかぬ。大事な会合の前でござるぞ」

「…チッ」



盛大な舌打ちの後で上から重みと温もりが引いた。自由が利くようになり上半身だけ起き上がる。ベッドから離れた高杉さんは何も言わずに入口側にいる万斉さんの元へと歩いて行く。視線は無言の背を追っていた。

「(って、傷口!治療!!)…高杉さん!!!」

咄嗟に呼び止めていた。突然あんな展開になったものの治療途中で傷口がそのままだ。卓上に散らばるガーゼと包帯を掴むと小走りで彼に駆け寄る。前に回り込むとその場にしゃがんで目線の高さと傷口を合わせた。出来るだけ丁寧に、かつ素早くガーゼを傷口に宛がうと手で押さえながら包帯を巻き固定する。少しでも加減を誤ると途端に解けるので注意が必要だ。三重四重と腹回りに巻き終えると専用の固定具で包帯を留める。真っ白な腹回りから視線を上げると、ジッと見下ろす彼の視線と交わった。しかし互いに何も言わない。包帯を留め終ると私は立ち上がり彼の前から退いた。再び高杉さんが歩み始める。扉を越えて万斉さんと何か言葉を交わしているようにも思えたが内容は聞こえない。広く乱雑な医務室の中で私は立ち尽くしていた。





万斉さんに名を呼ばれた。顔を上げてみるとドアの所にいた彼に「来るでござる」と声をかけられ、ようやく足を動かした。ドアから廊下を覗いてみても既に高杉さんの姿はない。私が近寄ってきたのを見計らって彼が歩き出したのではその後ろを続いた。

「にしても晋助と懇ろになるのは構わぬが、時と場所と状況を考えてもらわぬと困るぞ」
「いえ…その…あれは…」

私はただ傷の治療をしていただけだ。腕を引かれてあのような状況になってしまったのだが、間違ってもアレが目的でここに来たわけではない。断じて言える。しかしこの状況で私が何をどうこう必死に訴えても逆効果にしかならないと思われる。精々流されるだけだろう。私、何も悪くはないのに…。視線を逸らしながら百面相。元来た廊下を万斉さんと並びながら歩く。心は落ち着かないままだ。

「晋助のことだ。お主を連れ出し、治療が適当に進んだ所で迫ったに違いないでござるがな」
「…そ、そうなんです!万斉さん!!よくぞ気付いて下さいました!いきなり…」

ポツリと溢した彼の言葉に私は精一杯同意した。彼にこんな形でも行動を当てられている高杉さんって一体何なのだろうか。にしても、高杉さんはどうしていきなりあんなことをしたのだろうか。私の問いに結局明確な答えは返ってこなかった。


「今回は拙者が制したから良かったものの。晋助だと侮らずもっと自分の身に危機感を持て」
「すみませんでした。それで万斉さん…以前“高杉さんが私に執着している”と仰っていましたよね?」
「ああ。思い当たるモノがあったか?」
「いえ…でも…」


私は伝えた。彼が私に向ける全てに、私の知らない…私が知らない遥か遠く、どこか向こう側へと想いが込められているような気がしたことを。そして肝心の私には一切覚えが無いことを。フムと考えた所で万斉さんはまた笑った。


「暫く様子見でござるな。しかし拙者がさっき言った件、自覚を持って気を付けるでござるよ」
「解ってます。今私がするべき事は…医者として皆さんを治療することだから。帰ったらきっと戦場です」
「これからがお主の戦でござるな」
「ええ。これから高杉さんは?」
「晋助は鬼兵隊総督として春雨幹部と会合に入る。宇宙にある本拠地に言ってな。その前にとある師団の下っ端を拙者が言葉巧みに迎えに寄越したでござる」
「さっきから皆が言っている“春雨”って何なんですか?」


私の言葉に万斉さんがキョトンとした表情を見せた。珍しい。春雨という組織について、私は一切知らない。恐らくはここに居る天人の事を指しているのだろうけれど。万斉さんはそんな私に、“春雨”とは何か簡単に教えてくれた。宇宙最大の犯罪組織“春雨”、元老院とその下に置かれた提督、全十二師団という組織。各師団に団長と副団長と言うものがいることも。思っていたよりも巨大な…いや巨大すぎる。その組織は星ひとつと対等に渡り合えるようなものだろう。何それ怖い。って地球の攘夷組織である鬼兵隊がそんな危ない人たちとつるんでて大丈夫なのだろうか。少し…いやかなり不安だ。攘夷行為だけではなく別の犯罪につき合わされそうな気もしなくない。押し黙った私を見て「心配要り申さぬ」と頭を優しくポンポンと叩かれた。不意打ちの行為に思わず心が跳ねた。
長い廊下の突き当たりに鬼兵隊の隊士達が集まる部屋がある。その扉が見えてくるとようやく元の部屋に戻って来たことに少しだけ安堵した。それでも負傷者の手当の状況を考えると頭を抱えるばかりだけど。部屋に入ると横たわった隊士の間で忙しなく動く久坂さんが目に留まった。万斉さんに「それでは」と一言声を掛けると、彼の元に走り寄った。久坂さんには重傷者の応急処置は終わったから次は中度~軽傷者の治療にかかろうと言われたので頷く。見渡してみても、そこら中に隊士が横たわっている。


「医務室に薬が充実していましたので、少し持ってきたのですが…足りなさそうですね」
さーん!!ご無事でしたか!!」


聞き覚えのある声に振り向くと鳥羽さんと伏見さん(彼は鳥羽さんの友人でちょくちょく医務室に顔を出していた)がいた。腕を固定されている彼らはどうやら利き腕を負傷したらしい。駆け寄って、先ずは彼らの生還を喜びつつも怪我の程度を尋ねる。桂一派と思われる浪士と斬り合いになったものの右肩を負傷。そう深くはないがしばらくは安静にしなければならないという。リハビリを重ねれば再び刀を握れるという。

「(良かった)」

その事実に喜びを覚える。再会の喜びは程ほどに私は残った隊士の治療に専念した。切り傷を負った人には消毒後に包帯を巻きいて打撲を負った人には薬を塗る。合間に体が動かせない人の食事を手伝ったり。動ける隊士は、寝たきりの患者を動かすのを手伝ってくれた。一人で動かすには時間もかかって大変だったが数人手伝ってくれるだけで、作業時間は飛躍的に向上した。隊士の治療と負傷状況の把握が一通り済んだ所で、暫しの休憩だ。幹部は大部屋ではなく別室にいるようで、別れてからは万斉さんとも顔を合わせていない。簡単なキッチンセットで淹れたお茶を久坂さんや手伝っていただいた隊士に差し入れする。配り終わったところで自分も一息。

“晋助は鬼兵隊総督として春雨の幹部と会合に入る”

万斉さんの言葉が何度も繰り返される。鬼兵隊は春雨と共謀し何をしようとしているのだろう。共に幕府転覆を目指すのだろうか。しかし利害が一致しない限り、犯罪組織が協力してくれるはずもない。ならば相当の見返りを払う約束でもしているのだろうか。私にはわからない。あの船の医務室と同じで窓のないこの部屋では、今が朝なのか昼なのか…何処にいるのかもわからなくなってくる。底知れぬ不安。治療と戦闘と…別れとで整理が追いつかない頭がボーっと疲労を訴えている。

サンいるッスか?」

透き通るような声を耳が拾った。また子さんの声だ。その声を認識すると同時に椅子から立ち上がる。名を呼びながら彼女に駆け寄った。

「また子さん!」
「さっきはグッジョブっスよ!晋助様の怪我はアタシも心配してたんスから」

勢いよく高杉さんについて語りかけてくるまた子さんに、少し罪悪感を抱いてしまった。私も彼の怪我を治療できたことは、我ながら良い仕事であったと自負している。だけど、医務室でのあの出来事について…彼女には話すことはできなかった。これはきっと墓場まで持って行ってもおかしくはないだろう。以前に大江戸病院でも若い外科医をめぐって看護婦の間で戦争が起こったのを思い出した。


「この調子でウチ等が晋助様の心身共にサポートするッスよ」
「はい…」


また子さんが高杉さんに抱いている感情は憧れなのだろうか、それとも恋なのだろうか。私にはわからない。少なくとも、私が彼に抱いている想いは…憧れなんかではないのだ。さっき自覚した。ただ同じ思いでいるだけで背徳的な行為なんてないはずなのに、心が晴れないまま。「また悩み事ッスか?」そう声を掛けられて下向きの視線を上げた。この感情を悟られたくはなかった。


「大丈夫です。高杉さんが負傷されて少し動揺してしまっただけですから」
「よっし!紅桜計画は無くなってしまったけど鬼兵隊はまだまだこれからッス。春雨との盟約を結べば大きな後ろ盾が得られるんだから!!晋助様が戻ったら先ずは宴会ッスよ!!さんも今回ばかりはハメ外していいんスからね!!」


愉快気なまた子さんに背中をボンボンと大きく叩かれながら、私はまた一つ秘密を胸の奥底に仕舞う。
春雨幹部との会合の後、船に戻ってきた高杉さんを迎えた私達はとある宇宙船に移った。紅桜計画において地球で暗躍する必要のあった鬼兵隊は、工場設立の為“飛行船”を主に活動拠点としていた。それも今や海の藻屑。私達を迎えたのは先の船に良く似た宇宙船。正しく鬼兵隊主艦とも言うべきだろうか、これからはこの船が拠点になるらしい。総督から隊士に告げられたのは、地球へ戻ると言う言葉だけだった。
用事があると肝心の総督のいないまま始まった祝宴。負傷した隊士も多い中、動ける隊士は馬鹿騒ぎを繰り返す。鬼兵隊の再起…そしてこれから。形容しがたい不安を抱えながら、私は手にしたグラスの底を眺めた。



三章、紅桜 【完】

紅桜編完結。負傷兵の治療に専念しつつ、医務室で色々と事件。
20170226*星宮はちこ   裏語