レプリカ虚像乙女
【第七章、受容 六十一話、忘れ物に気をつけて】
朝一番にかかってきた電話の受話器を取ったのは、食事の準備をしていた私ではなく寝ぼけ眼をこする銀さんだった。「はい。万事屋ですけどォ」と、声のトーンからして相手の話を聞いているのか心配だ。私は卵焼きを作りかけ(火は止めた)だったので、台所に逆戻り。焼き加減は絶妙。茶碗に米を盛り、焼いたウィンナーに豆サラダとコンソメスープをお盆に乗せる。
「朝食の準備ができましたよー。あ、神楽ちゃんおはようございます」
「おはよアル」
「先ずは顔を洗ってきてね。銀さんも!」
夏の朝は明るい。そして日中のうだる様な暑さは未だ感じられず、空気が気持ちいいのだ。朝の第一段階の準備を終えた二人を迎えて皆で手を合わせる。
「「「いただきます」」」
神楽ちゃんの食べっぷりは目を見張るものだ。よく噛むように言うと「おかわりアル!」と、あっという間に一杯目のご飯を食べ終わっていた。期待に添えるように白米をこんもりと盛る。昔話でよくあるやつだ。
「で、さっきの電話は何だったアルか」
「ああ、あれ。午後から仕事の依頼が入ったんだよ」
「ほぅー万事屋居候としての
の初仕事ネ。気張って行くヨロシ!」
「頑張りますよ」
仕事の内容はわからないけれど、少しでも皆のお手伝いが出来たらと思う。足手まといにだけはなりたくないものだ。スープを飲みながら心の中で決意を固めていると「いや今回は、
は留守番で」なんて声が。
「え? いきなり留守番ですか!?」
「頼むわ。なっ! 銀さんのお願い。お手つきは一回休みで」
「私、お手つきなんてしていないんですけど……」
その後、なんだかんだ銀さんに言いくるめられてしまって、念願の初仕事はお預けになってしまった。表向きは食器を洗いつつ
は肩を落とした。戦力外通告とでも言うべきか。一体どんな仕事だったのだろう。
食器を片付けて温かいお茶を二人に出した頃には、新八くんも万事屋にやってきた。銀さんに、午後からのお仕事の件を告げられて、彼も神楽ちゃんと同じく私の初仕事に喜んでくれた。けれど次にお留守番と聞いて、何とも言えない表情をしながら慰めてくれた。私は追加で新八くんにもお茶を渡す。
「で、銀さん。今回は何の仕事なんですか?
さんを置いてまで危険な感じとか」
「お前のゴリラ姐ちゃんがいる“スナックすまいる”の店長からお呼び出しを食らったんだよ」
「姉上と
さんが会う良い機会じゃないですか」
「いや、それがね……大人には大人の事情ってもんがあるんだ」
「新八くんのお姉さんの話は多方面からお伺いしてます。あーあ、……お会いしたかったな」
銀さんはお茶を飲みながら「次回だ次回!」と手を振った。
は未成年二人を連れていくなら、それが危険な仕事でないこと、あまり風俗店に関わりを持たせないことを約束してもらった。
彼らが依頼に行ってしまうなら私は家事当番。日中は殆ど暇だろう。洗濯機を回している間に床の雑巾がけ。定春くんの抜け毛がすごいので掃除機をかけてから水拭き開始。洗い終わった衣類は皺にならないように伸ばして吊るす。これは神楽ちゃんも手伝ってくれた。お手伝いのお礼を言ったら、神楽ちゃんは定春君の散歩に出かけてしまった。
「そうだ。今のうちに……」
預かっていた風呂敷包みの荷物を引っ張り出すと、これまた別の小箱を取り出した。風呂敷の中には黒い服がいくつも重なっている。作業の為に小箱から針と糸を取り出した。
「なあ
。何してんの?」
「この黒い服、どこかで見覚えがありますけど」
和室で準備をしていると、銀さんと新八くんが顔を覗かせる。私は服を広げて見せた。黒く艶やかで張りのある生地に金縁の装飾が特徴的。
「これ真選組の隊服です。屯所にいた時から修復のお手伝いをしていて……」
今回屯所を離れるにあたり、是非継続して修復作業をお願いできないかと土方さんから打診されていた。私の修復は丈夫だからと、隊士の中で評判がいいらしい。中には隊長クラスの隊服が混じることもある。
これは特殊警察の衣装だ。紛失や売買、はたまた攘夷浪士の手に渡る……など持ち出しは危険が伴う。けれど数の管理を徹底することで、私の手元に置くことを認めてくれた。或る程度、屯所で溜まったら私の元に送られてきて数日で返却することのなっている。僅かだけと礼金も受け取っている。
銀さんと新八くんには真選組の隊服には触らないようにお願いした。私も下手に出しっぱなしにしてはいけない。これは帰ってきたら神楽ちゃんと定春くんにも伝えなくては。
解れや破れを縫い綴じ、針仕事を進めていると玄関が開く音がする。神楽ちゃんと定春くんが帰ってきたらしい。
は針をしまって二人(一人と一匹)の出迎えをした。私の仕事に興味津々な神楽ちゃんに先ほどのお願いを伝えた。
そうこうしているうちに、あっという間に昼前になってしまった。
仕事前の昼ごはんはガッツリ系がいいだろうと安かった鶏胸肉を使ったチキン南蛮だ。朝の残りの卵を茹でて、手作りのタルタルソースをたっぷりとかける。「どうぞ」と配膳して、手を合わせるとあっという間に無くなってしまったけれど。
「じゃ、行ってくるから。
は良い子でお留守番頼んだぞ。俺らが不在の万事屋を守るのは
しかいないんだからよ。悪いおじさんにはついて行っちゃダメだぞ。ついでに怪しい宗教系や新聞の勧誘は断れよ」
「はいはい。わかってますから」
笑顔で送り出す。三人がいなくなった部屋はしんと静まり返っていた。「ワン」定春くんの鳴き声に呼ばれて顔を上げる。意外と近かった。額をぐいっと差し出されて右手でワシャワシャと撫でてあげた。これがお気に入りらしい。
「万事屋のお留守は私が守らないと……ね」
「ワン」
床面を終えるとお風呂にトイレの清掃。乾いた洗濯物を取り込んで畳む……真選組の皆さんは元気にしているのだろうか。屯所でも毎日、身の回りのお仕事を手伝わせてもらっていたのを思い出す。清蔵さんが几帳面に畳んでいた洗濯物を部屋に入ってきた沖田さんが思いっきり蹴飛ばしていて、かき集めた洗濯物を次は土方さんが踏み散らかして、終いには近藤さんの持ってきた未洗濯の下着が上から降り注ぎ、全部洗濯し直したこともあったな……なんて。考え事をしているといつの間にか手が止まっていた。いけない、まだお仕事の途中だ。
「ワン!」
と、再び定春くんの鳴き声が聞こえた。「次は何? ……あら?」彼の口元には見覚えのある黒い二つ折りのお財布が。これ確か、銀さんの財布だったような。定春くんが今ここで咥えているということは、肝心の銀さんはお財布を置き忘れていったのだろう。
「(お財布……あったほうがいいよね)」
彼らが承ったのがどんな依頼なのかはわからないけれど。もし帰りに飲食店にでも寄っていたら、彼らは無銭飲食になってしまうだろうし、喉が渇いた時にでも自販機で飲み物を買うことすら叶わない。依頼主は新八くんのお姉さんが働く“すなっくスマイル”というキャバクラのオーナーだと言っていた。場所はわからないけれど恐らくかぶき町圏内、お登勢さんにでも聞けば教えてくれるだろうか。
「ちょっと届けてくるから。大丈夫、すぐ戻るからね」
「ワン」
「それまでお留守番よろしくね」
「ワン!」
戸締りを整える。今一度すり寄ってくる定春くんを撫で回して私は玄関に立った。「行ってきます」鳴き声に背中を押されて私は万事屋を出た。
お登勢さんに事情を話すと「銀時も抜けた男だねぇ」なんて呆れつつ“すなっくスマイル”の場所を教えてくれた。丁寧に手書きの地図を預かる。予想通りその店はかぶき町にあり徒歩圏内だ。夏の暑い日差しが燦々と降り注ぐ。日傘を借りていてよかった。もしかしたら、依頼をあっという間に終わらせて向こう側から歩いてくるかもしれない、なんて予想もしていたけれどもれなく外れ。
たどり着いたのは豪華な看板が掲げられたキャバクラ。一般の住宅ではないのだから両開きの扉には呼び鈴も無かった。裏から回った方がいいのだろうか……って裏ってどこだっけ? 考えても埒があかない。私は財布を届けに来ただけだ。渡したらすぐに万事屋に戻るつもりでいたのでそのまま扉を押した。
「失礼します」
覗き込みつつ念のため声をかけても周囲に人の気配はない。しかし扉に鍵などはかかってはいなかったので、誰かが入って来ても問題ないのだろう。多分。人一人分の隙間を開いて体を滑り込ませる。パタンと扉が閉まると廊下の向こう側から話し声が聞こえてきた。良かった、従業員がいる。
ガヤガヤと少し騒がしい方向へ足を進める。廊下が途切れていると思ったら営業フロアは階段を降りた所にあるようだ。
「すみません! あの……こちらに万事屋がいらっしゃると伺ったのですが」
階段の上に立ちフロアへと声をかけると、手前のボックス席の人だかりが一斉にこちらを向いた。その視線の数に思わずたじろぐ。その中で銀さんの視線だけはバッチリと交わった。目立つ髪色だからだろうか。しかしその視線はどこかばつが悪そうにも思えた。
「
……ってヤバっ!」
「あ、
さんじゃないですか」
「おいお前ら私のこと無視してんじゃねーアルヨ!!」
万事屋の面々があれこれ言っている。そして神楽ちゃんが物凄く濃い化粧をしながら、銀さんと新八くんを睨みつけていた。すると、
「あらあらどちら様かしら? 銀さんがこんな美人さんとお知り合いなんて私聞いてないんだけど」
上品な着物姿で、高い位置に一括りに髪を纏めた女性(所謂ポニーテール、でも髪の長さは圧倒的に
の方が長いけれど)が笑顔で歩いてくるではないか。
その女性がまさに階段を上ろうとした時、風の様な速さで銀さんがその横を通り抜け、私の前まで駆け上がって来た。彼は女性の視界を遮る様に私の前に立つと、そのまま私の両手を握り体を寄せてきたのだ。その強引さと思わぬ展開に体がビクリと反応する。
「いやぁー
がどーしてここにいんの?」
「えっと、財布をお忘れになっていたので届けに」
袖口から彼の財布を取り出すと、銀さんはガシッと音がするくらいにそれを掴み取り自らの懐にねじ込んだ。
「あ、コレ? わざわざ届けに来てくれたのサンキュ。さっすが気が利くわー。もうじき夜になったら怖ーい兄ぃちゃんウロウロすっから早く帰んな。俺、
の手料理楽しみにしてんのよ。な? な?」
早口な上にどこか目が泳いでいる様にも見える。普段の気だるい彼からは想像もできないほど……動揺している? 顔が寄ったことが恥ずかしくて頬が熱を帯びた。と、次の瞬間に彼の頭部に指が食い込んだ。背後から例の女性が頭を一掴みにしているのだ。ミシミシと嫌な音が聞こえるのは気のせいではない。銀さんの額に脂汗が滲んでいた。
「オイゴラ天パァ。人の話は最後まで聞けやアアン?」
「うぐぁ!! 頭が!!」
「姉上! 銀さんがこの世の終わりみたいな顔を!」
「新ちゃんもこんな女性とお知り合いなんて私、聞いていませんよ」
「いや……それは……」
お姉さん? 新八くんのお姉さん?
脳内で新八くんの発言が繰り返される。他の人たち(主に男性従業員)は事の運びをハラハラと心配そうに眺めていた。
「新八くんのお姉様ですか? わあ! 初めまして。私、
と申します。今は訳あって万事屋にお世話になっています。噂通りのお綺麗な方で」
「いやぁ〜ん。“お綺麗”なんてもう、よく言われますぅ」
「おーい
。コイツの見てくれに騙されんな。ゴリラの見た目通り凶暴……」
次の瞬間、銀さんが後ろに吹っ飛んだ。階段の下へ転がるのはまるで死体の様に白目を剥いた彼。「大丈夫ですか!?」駆け寄ろうとするも女性が「見た目以上に頑丈なんで心配要りませんわ」と笑っていた。そのまま彼女は私の手を取る。
「私、新ちゃんの姉の志村妙と申します。貴女みたいな方が万事屋にいると知りませんでしたので……でもこれも何かの縁。今宵は私たち、すなっくスマイルの為にご協力下さい」
「協力ですか?」
次に階段を上がり近付いて来たのはオールバックにサングラスの男性だった。お妙さん(皆にもそう呼ばれているから、呼んでくださいと言われた)が「店長」と呼んだのだから、このキャバクラ店の店長さんだろう。私のことを上から下まで一通り眺めて「合格〜!!」と白い歯を見せて笑っている。未だ白目を剥いたままの銀さんをそのままに、私はフロアへ降りてボックス席に座る様に促された。
テーブルの向こうには何の店かも見紛うほどの個性的な方々。ツインテールの美少女に、中性的……でもないタオルを体に巻いた男性、キャサリンさんは同じ様なタオル巻きだけどトップが見えてるし、その隣にはボンテージ姿の女性まで。キャバクラってこんなお店だったっけ。詳しくないからわからない。そして何より、お化粧の濃い神楽ちゃんはどう見ても未成年なのだが。って言うか、神楽ちゃんは未成年だ。風俗店にいたら駄目なのだ。後で銀さんに先の約束を確認せねば。
黒服の従業員さんがお茶を出してくれる。お礼を言って一口。ああ、お茶って美味しい。
状況がまだよくわかっていない
に、店長さんとお妙さんが、今回の万事屋への依頼内容とお店の状況を詳しく教えてくれた。何でも今宵、幕府のお偉いさんがやって来るのにキャバクラの従業員の中で風邪が蔓延し、働けるキャストがお妙さんしかいないらしい。従業員一人では何もできないので万事屋に誰か目ぼしい人は呼べないだろうか、と言うのが今回の依頼。そして集まったのが目の前の方々。
「銀さんったら
さんを早めに呼んでくだされば良かったのに! 一日だけで構いませんのでキャバ嬢になって下さいな」
「私、接客業とか未経験でお話も得意ではないのですが……」
医者やら看護師業務は少なからず患者と接するが、飲食店での接客業とは勝手も何もかもが異なるだろう。こういうのには向き不向きがつきものだ。「大丈夫よ。ニコニコ笑いながらお客様の話に頷いて、言われた通りお酒を混ぜてくれる係でいいので」お酒も簡単と、指で数えながら教えてくれる。
「先ずはドンペリ……原液ね。ドンペリの水割りはドンペリ2に対して水8、お湯割りはお湯が8。焼酎割りもウーロン割りもドンペリ2に対してそれぞれ8だから!」
2対8……って、薄くないのだろうか。考えていると隠し味に別のアルコールを混ぜることもあるらしい。うん。それって、ぼった……いやなんでもない。
今のままだと格好が地味だから、と店の奥にある支度室に連れてかれて、あれやこれやと衣装を合わせられる。どれも普段着ない様な華やかな柄ばかり。おまけにキラキラ仕様だったりフリフリ仕様。顔を覗かせた神楽ちゃんが「
はナースやってたアル」との一声で私の衣装が決定した。
「だからウチの店何屋ァァァァ!!!?いや可愛いからいいんだけど、ね」
店長さんが雄叫びをあげつつ、どうにか納得しようとしてくれている。神楽ちゃんの助言の下選ばれたのはもちろんナース服。それも清楚で正統派な膝丈……なんてものではなく、膝上十センチか十五センチはあるだろうミニ丈で、体のラインは強調されている。加えてデザインなのか、何故か切り抜かれた胸元。そこからは本来は見えるはずのない胸の合間が惜しげも無く晒し出されている。胸の辺りだけ下着姿のような感覚だ。空調の風を感じる。ちなみにこういうのは初めて着た。
「すごいわ! 最高よぉ
さん!」
「は、恥ずかしいんですけど……そんなに見ないで下さい」
「オィィィィ!! このゴリラ女ァァ!
になんてエロい格好させてんだ! んなもん客以前に銀さんの銀さんがおっきしちゃうだろーが! ……ゴフォ」
目覚めた銀さんがお妙さんに抗議したところ、彼女の拳が彼の顔にめり込んだ。本日二度目の死体化であるけれど、次は復活が早い。鼻血を出しつつも私に近づき「ったく、酔った客がケツ撫で回したり乳揉んでくるかもしれねーだろ。お前は俺の隣な。嫌だったら銀さんに助け求めろよ」言いつつも彼の手が私のお尻に触れたのだ。
「ちょっ!」
あまりにも自然、かつ撫で回すような手付き。思わず声が出てしまった。私の抗議に、ニヤリと笑いながら「サービス♪ サービス♪」と彼が手を振る。と、前にいるお妙さんとは別の方向から拳が飛んで来たではないか。そしてその拳は銀さんの右頬に当たり体を吹き飛ばしたのだ。
「ちょっと! 銀さんったら!! キャバ嬢になれって命令した挙句、私の前で他の女とイチャつくなんて……Sなのね。イイ! イイわ!! 燃えるわ。その誘い乗ってやろうじゃないの」
拳の主は、綺麗な薄紫の髪色に眼鏡を掛けたボンテージ姿の女性だった。頬を赤らめながらお妙さんに向かって「銀さん」と呼び続けている。だが肝心の彼は、女性本人の手によって吹き飛ばされて床に転がっている。「あの……銀さんあっちなんですが」指を差しながら教えてあげるも、次は私の方を向いて「銀さん」と。痺れを切らしたお妙さんが女性の頭を鷲掴みにしてキリキリと締め付けあげていた。解放された女性は一直線に私を指差す。
「で、貴女。いきなり私達の前に現れて一体何なの!? ちょっと覗いていたら、銀さんと同じ屋根の下で生活しているようじゃない」
「失礼ですがどちら様ですか」
覗いていたら……って何処から? と、口にしてしまいそうだった。私が万事屋に移ったのはここ最近だし、真選組に万事屋とお登勢さん達以外には知られていないはずだが。まさか情報が漏れでもしているのだろうか。そしてそれを知っているこの女性が何者なのだろうか。
「仕方がないわ教えてあげる。私は元御庭番衆の猿飛あやめよ。銀さんの婚約者(フィアンセ)なんだから!」
「銀さんの!? ごめんなさい。貴女のような、素敵な恋人がいるとは存じておりませんでしたので」
「あら、わかってるじゃないの……いいわ、許してあげるわ。でもこれだけは覚えておいて!! どんな邪魔が入ろうと、どんな女が現れようと私と銀さんの愛は邪魔できな……」
眼鏡掛けろ、と銀さんの鉄拳が振り落とされる。「此奴は俺のストーカーだ」どうやら婚約者ではないことを強調している様子。近藤さんと同じくどうやらこの恋は一方通行らしい。そういえば近藤さんの惚れた相手は、今目の前にいるお妙さんその人。綺麗な方なので惚れてしまうのは納得だ。ストーカー行為は到底許されるものではないけれど。
騒動が収まったところで、お妙さんが残りの方々をご紹介してくれた。ツインテールに眼帯をつけている美少女は、将軍家への剣術指南の名門柳生家次期当主である柳生九兵衛さん。そして彼女の世話役の東城歩さん。男性である彼が何故体にタオルを巻き、エアーマットを持っているのか……ツッコんでは負けな気がする。いやもうキャサリンさんまで似たような格好だし、ついでに彼女の場合はトップまで曝け出されているし。
「店長ォ!! お客様いらっしゃいましたァア!!」
いつの間にか、かぶき町が動き始めるほどに時間が経っていたらしい。準備が整っていないのか、店員の言葉に店長が慌てふためく。「みんな! 早く出迎えに行くわよ! お水の花道はもう始まっているのよ!」お妙さんが駆け出した。彼女に続いて九兵衛さんに神楽ちゃん、猿飛さんが階段を駆け上がる。私は一足出遅れてしまった。まだ立ち上がっただけで、ボックス席から出すらも出来ていない。「大丈夫かねぇ」心配する店長さんに銀さんは笑っていた。
キャバクラ騒動。こんな話あったなと思っていただければ…
20201122*星宮はちこ 裏語