レプリカ虚像乙女
【第八章、芙蓉 七十五話、冷たい涙なんて流したくはない】
何なんだあの人達は。
そう叫ぶ新八くんの声が道に響きわたる。玄関が吹き飛んだ後の一瞬だけ、私には向こう側にいる人物の姿が見えた。上等な上着を羽織った恰幅の良い髭面の男に、左右にはまるで蔵人と
のような給仕服姿の二人。まあ私の知る二人の方が人間味があって魅力的だけど。
「オイ、どう言うつもりだ。さっさと俺の腕から離れやがれ。無関係な俺らを巻き込むつもりかコラ。オイ返事しろ返事」
機械家政婦が壊れたわけではない。留守電の自動音声を地声で再現するように、思いっきり彼女の裏声で反応がない旨を告げている。狸寝入りなのはまるわかりだ。それに苛立ったのだろう。どこかの完全復活の呪文を唱えながら、片手でハンドルを握る銀さんが器用にたまを地面に擦り付けている。地面を削るようなガリガリとした物凄い音。狸寝入りも現実の痛みには敵わないのか、直後にたまが「復活」を遂げた。
「銀ちゃんあれ!!」
「?」
神楽ちゃんが上を指差しながら叫んだ。私もその後ろから追うように見上げる。
どうしてだろう。道沿いの建物の屋根が私達と並行するような速さで崩れているではないか。え、何これ。超常現象? …は信じない主義だ。よくよく屋根を凝らして見ると崩壊する屋根の前線に人影が一つ。建屋を飛び移る人影が土埃から姿を現わす。メイド服の女の子がモップを持ちながらどんでもない勢いで屋根の上を駆けている。横顔だけど…薄い色で髪が長かった自分の姿に少しだけ似ているようにも思える。まあ私はあんな乱暴な真似はしないけれど。
“キャハハハハ!見つけましたの~ホクロビーム”
耳に残る高い笑い声がしたと思えば、足を踏み込んだ機械家政婦がモップを振り回しながら飛び降りてくる。私の目には全てがスローモーションのように映っている。
“お掃除の時間ですの~”
クルクルと振り回していたモップが両手に構えられたと思った矢先、振り落とされた先端が轟音と共に地面を割った。
「「「ギャアァァァァァ!!!」」」
…何これ何これ。ダメだ何これ。私達(神楽ちゃん除く)の悲鳴は見事に重なった。何なんだアレは、と頭が混乱し処理が追いつかない。たま曰く、“芙蓉 似ー参丸伍號”と言う同プロジェクトで開発された最新型の機械家政婦とのこと。
「家政婦じゃねーよアレ!兵器!兵器だよアレ!
の所の物騒メイドといい勝負じゃねーかァァァ」
「
は
家のボディガードであって、あんなことはしませんから!」
「お前に奴の何がわかるんだァァ!!もしやあの物騒女、
の前じゃカマトトぶってたのか!?ひぃぃぃ!!」
ウチの
はボディガードであって、一通りの体術に武器は使用できるがこんな破壊・暴動行為はしない。同執事の蔵人も同じく。その力を行使するのは有事の際だけで普段はただの使用人に過ぎないのだ。“お掃除ですのォォ”と、叫びながら物凄い勢いで家政婦が追ってくる。そこらのホラーよりもずっとホラー。あれ、自分が何言っているか最早わからない。これしばらく夢で見そう…。それもきっと魘されるやつ。
“彼女の別名は〝くりんちゃん〟。清掃能力に特化した機械ですが、病的な潔癖症故に購入者からのクレームの末返品された不良品です”
「不良品ってもんじゃないですよ!!綺麗にするって、破壊して更地にでもするつもりですか!?」
記憶がないと言っているのにあの機械娘の情報だけは詳しいのか、との新八くんの的確なツッコミが響く。確かにそうだ。定春くんにしがみ付きながら私も心の中でうんうんと頷いておこう。
清掃機械家政婦の通った道には建屋の残骸が転がるばかり。清掃って一体何だっけ。綺麗にするって一体何だっけ!? むしろ廃棄物を生産しているようにも思えてくる。裏路地を抜けると左に急カーブ。定春くんも銀さんの乗ったスクーターに続く。私は、急激な方向転換に振り落とされないように必死だった。
くりんちゃんは、普段、林先生の研究所で清掃班として働いているらしい。そして芙蓉の額のホクロをゴミに間違えて取ろうとしている。何だそれは。最先端の技術を詰め込んでおきながらツッコミ所満載の代物。とんだ不良品ではないか。
私達を追って、裏路地からくりんちゃんが飛び出てきた。同時に劈くようなクラクションの音が響き渡る。慌てて後ろを確認すると、通りの真ん中に降り立った機械家政婦の背後に大型のトラックが迫っていた。危ない! 最早どちらが危ないのかは判断がつかないけれど。
“清掃班はゴミを処理するのだけが仕事ではありません…”
背後から迫りくる存在に気付いた機械家政婦が、持っていたモップを突き立ててトラックを止めた。さっきからそう。地面を叩き割るような衝撃を加えても、鉄のトラックを突き破ってもあのモップ…一切折れたり傷ついたりしないのだ。相当の強度。一体何の金属使っているのか。アレで殴られたら人間なんてひとたまりもない。運転手が慌てて逃げ出すのが見えた。
その直後、爆音と共にトラックが火を噴き、黒い煙がもくもくと上がる。赤い炎に包まれたトラックは無残にも金属の塊と成り果てていた。燃え盛る炎を背にモップを回しながら機械家政婦は笑っていた。血の通っていない機械仕掛けの笑顔がまた…恐ろしい。
“それはつまり〝芙蓉〟プロジェクトの障害をチリも残さずに消す鋼鉄の掃除屋です”
鋼鉄の掃除屋…もう意味がわからない。
視界の先には、道を塞ぐように立ちはだかる人影が複数。目を凝らして見ると黒地の服に映えるエプロン姿。私は全身からサアっと血の気が引くのを感じた。このままじゃやられる。諦めるなんてできないけれど、この状況を打破できるような策は浮かばない。
突如、目の前のスクーターも定春くんも、道のど真ん中に止まった。銀さんは運転しながら機械家政婦の存在が見えていたようだけど、新八くんはどうやら今気づいたらしい。圧巻の光景。それも絶望的な。機械家政婦の数はざっと見積もっても五十人ぐらいはいるだろう。前にはメイドが五十、後ろには例のモップを振り回しながら周囲を破壊し尽くす悪魔の存在が迫ってくる。
“そのホクロビームをこちらに渡せばいいですの~。そのホクロは林博士を殺した罪人ですの~。私達で処分しますの~。大人しく引き渡せは関係の貴方達への危害は加えませんの~”
「関係ない連中散々巻き込んどいてそりゃねーぜ」
「渡したら一斉に来るつもりアル!!誰が信じるかボケェェェェ!!」
「完全に挟まれました…逃げ道はもう上しか無さそうです」
間延びした声が機械的で胡散臭さを引き立たせる。上に逃げると行ってもその術は持たないけれど、誰かが動けば前後から一斉に襲って来る。誰がどう、どのタイミングで動くかがポイントだ。もう私のことはいいから大人しく引き渡して下さい、とたまは言うのだけれど、肝心の彼女自身が銀さんを離していない。「お前が離せェェェェ」銀さんが叫ぶ。
“ホクロビーム。アレをどこへやりましたの~。博士からアレを奪ったのはわかっていますの~”
“何のことですか、うまのふん”
会話の中に出て来る“アレ”って一体何だろう。重要な何か? 噛み合わないたまと機械家政婦の会話。とぼけても無駄だと、まるで人間みたいな駆け引きが続いている。“芙蓉”プロジェクトは、機械達の言う“アレ”があって真の成功を得るらしい。両手を広げながら家政婦はうっとりと語った。
“その時、機械は神にも等しい存在になりますの~。人間と機械の立場は逆転しますの~”
機械が神と同等? 人間と機械の立場が逆転? 彼らの言うあの方って一体誰?
林博士は殺害されてこの世にはいない。ならば事件の黒幕が…他にいるということだろうか。その人は林博士をも手にかけた存在で、裏で手を引いていると思われる。「お前…」銀さんの声に振り返る。すると、
「そんな…!」
たまの瞳から溢れているのは透明な涙だった。機械にそんな機能があるなんて聞いたこともない。彼女はまるで感情を持った人間のように涙を流しているのだ。理解が追いつかないのはこんな状況だからだろうか。涙を流すたまを見て「やはり持っていた」と機械家政婦が言葉を漏らす。
“アレ”を持っていると涙が出る? “アレ”を持つことで感情を持つ機械が…生まれるとでも言うのだろうか。それは一体何なのか。
私は以前にも、似たような経験をした気がする。記憶があやふやなのは、それほどに昔のことなのか、あるいは記憶喪失の間の出来事だからなのか。それすらもわからない。
アレがあれば…
誰かの声が聞こえる。あれ、これ、それ、どれ…? あれって一体何のこと。あれって…もしかして賢者の石? でも違う。あの石は偽物だ。私が河原で拾ったただの石。値札の付いた入れ物に入れたガラクタ。本物なんてこの世には存在しない。
“それを私達に渡すんですのォォォ!!”
女の叫び声が私の意識を呼び戻した。私の目には武器を手に、こちらに進撃してくる機械家政婦の軍団。
「神楽ちゃん!」
「
はそのまま定春の上にいるアル!!」
前にいた神楽ちゃんが定春くんの上から飛び降り、いつも持っていた番傘の先端をくりんちゃんに向ける。一体何をしようと言うのか。器用に柄を操作したと思えば先端から音を立てて銃弾のようなものが連射された。あの傘…銃なの?
これ以上近づけない為か、銃弾は家政婦の足元にめり込む。“邪魔を止めるんですのォォォ!!!”それが引き金になったのか、前後のメイドが一斉に襲いかかって来た。
「定春ゥゥゥ!!
を!!!」
「ワン!」
「え!?」
銀さんが叫びながらスクーターがメイドの大群に向けて全速で進行していく。彼の言葉を聞き取ったのかは定かではないが、私を乗せた定春くんも、銀さんを追うようにメイドに向けて走り出した。今から一体何をすると言うのか。
「新八ィィィ!!飛べェェェェ!!」
「わっ!!」
その叫び声と共に私の前ででスクーターがメイドと衝突、燃料タンクが爆発した。爆発の僅か前に、私は体勢を崩した定春くんの背中から投げ出される。しかし体は地面に放り出されずに、定春くんの後ろ足による蹴りによってメイドの人垣を飛び越えた。
「いやァァァァァァァァ!!」
視界が二転三転とする。落ちたら死ぬ…そう思った私を待ち受けていたのはやわらかい衝撃とビニールの音だった。三半規管が麻痺しているけれど…このまま寝転がっているわけにもいかない。
上半身を起こして状況を確認しなければ。地面に落ちるはずだった私を受け止めたのはゴミ捨て場に積み上げられたビニール袋の山だった。助かった。まさか定春くんはちゃんとここに落ちるように狙っていたのだろうか。わからないけれど。
「新八!!源外のじーさんの所にその首連れてけ!!ついでに
を頼んだ!!早く行け!!」
ついでかい!!と脳内だけで突っ込んだのはここだけの話。道路を見渡すと人垣を抜けた先に新八くんも横たわっている。バイクから放り出されたものの、彼も一先ず無事な様子。良かった。彼の手元にはたまの首が見える。
燃え盛る炎と煙。襲いかかるメイドを木刀で抑える男が我々を急かした。
「
さん!!僕に続いて!!」
「はい!」
声を上げてゴミの山から抜け出ると二人で裏路地に逃げた。
…
‥
たくさん走りすぎて胸が痛い。まるで空白の終わり…この生活の始まりの日のように。走って逃げるなんて、まるで嫌な思い出でしかない。「くそっ…一体どうなっているんだ!なんでこんな目に」先を行く新八くんが呟いた。無理もない。突如私達の日常が壊れて、こんな状況に陥ったのだから。
「あっちもこっちも、どっちもメイドだらけじゃないかァァァ!!」
「新八くん落ち着いて!!」
表通りの戦闘は未だ続いているのだろう。銀さん達が合流する気配はない。そして、たまを追ってきたメイドが後ろからも上からも迫ってきている。私は戦闘なんてしたことがない。体育の成績は平均だった。大した戦力にもならないのだから、今が危機的状況なのは間違いない。
“敵の狙いは私です。あなた方は最も危険な任務に就いてしまったようです。私の計算では、お二人の生存確率は残念ながら5%以下”
「嫌な数値出すのやめてくんない!?誰のためにやってると思ってるの!!」
「…取り囲まれたわ」
細い裏通り、私達の前にも後ろにもモップを持ったメイドがいる。背を合わすようにして周囲から視線を逸らさない。“ですが…”と、たまは計算結果を口にする。
彼女の首を捨てて、私たちだけが其々反対方向に逃げれば生存確率は少しは上昇するとのこと。確率が跳ね上がると言っていたが高々25%に過ぎない。5倍と言えば聞こえがいいが今の状況を見て換算してもそんなもの…5%と変わりはしない。
「
さん」
「私は大丈夫」
せめて自分の身は自分で守らなくては。もしもの時の動き方は
に習ったことがある。それが今。相手は武器を持っていて複数だから…せめてこちらも何か武器になるものがあればいいのだが。周囲を見渡すと竹箒が壁に立てかけてあるのが見えた。あの長さならモップの攻撃を防げるだろうか。向こうはあの強度…いつまで保つかわからないけれど無いよりマシだ。隙を見て竹箒を手に構えた。
「たまさん。それは普通の人間の勘定の仕方です。侍は違う」
落ちていた棒切れを拾いながら彼は語った。彼女を見捨てて運良く助かっても、侍は死ぬ。護るべきものを護れずに生き残っても…侍は死んだも同じ。5%の確率があるのならそれ全てを使って、護るべきものが生き残る確率を上げる。
「一旦護ると決めたものは何が何でも護り通す!!それが侍だァァ!!」
「女だって護るものは護ります!!!」
彼がメイドに向かって行くのを背中で感じて、私も自らの前に構えるメイドに振り上げた箒を叩き落とした。くりんちゃんと呼ばれたあの型の機械と比べて、こちらは戦闘にそう特化したものではないらしい。振り上げたモップを振り落とす速度や強さも人のそれと同等か。私が戦闘慣れしてないのもあるからかもしれないが、頑張ってタイミングと力の込め方を合わせれば、彼女達の攻撃をモップで防げるのだ。
「(
が木刀を持って対峙した時のあの一瞬の表情…あれに比べたらマシだ)」
彼女の護身術講座を受けていた時に、一度だけそんな事があった。目が据わっていたと言うか…本気が垣間見得たと言うか。たった一瞬なのにこちらの手が震えたほどだ。その後はいつもの彼女だったけど。
目の前の一人だけを相手にしていてはいけない。周囲の動きを読んで攻撃を塞ぐ。振り落としたまま逆袈裟のように振り上げ、相手の攻撃する。相手もしくは自分も振り上げたその一瞬、脇に隙が生じる…
の教え。モップを振り上げるメイドの脇腹に、まるで野球みたいに両手で振り切った箒の柄が当たる。振り切った勢いでメイドが横の二体を巻き込んで建屋の壁に崩れる。
“侍ー理解しかねます。私のデータには該当するものはありません”
「じゃあ付け加えて!勇者より魔王より上のところに!ついでに…女の子の涙に弱いってね!!!」
手慣れた刀さばきで周囲のメイドを蹴散らし、新八くんが包囲網を突破した。「
さん!!!」遠くから叫び声が届いた。私も彼の名前を呼んで応じる。
「僕がたまを連れて囮になります!!少しでも安全なルートで逃げて源外さんの元で合流しましょう!!」
「わかりました!!」
竹箒の先端をメイドの顔に向かって投げ、さっき倒したメイドのモップを失敬して裏通りの更に脇道…建屋の隙間に入り込む。人一人分が入れる幅だ。その隙間を抜けると一本横の裏通りに出る。たまの首は彼が持っているからか私を追ってきているのは三人だった。
これが確率25%? …こんな確率なんていらない。一刻も早く新八くんと合流せねば。源外さんの営む“からくり堂”の方向を確認して隣の裏道を走る。向こうの通りに戻るには、からくり堂が面する通りまで抜けるか今さっき通ってきたみたいに建屋の隙間を抜けるしかない。連なる長屋は切れ目が見当たらない。「あった!」走りながら見つけた隙間に入り込む。
新八くんの方はメイドの大半が追っていたのだから、相当な戦闘になっている可能性だってある。どうか無事でいてほしい。もう直ぐさっきの通りに合流する。建屋の隙間から見える僅かな景色は何事もなく静か。今まさに抜け出るその瞬間、景色の中を、目の前を新八くんが通り過ぎた。
「!」
よかった…無事なようだ。元進んでいた通りに
が合流すると右側面に飛び込んでくる影が一つ。蔵人のような姿の機械…そう言えば万事屋に乗り込んできたのは女型だけではなかった。
“目標捕捉。邪魔者は排除し、零號機回収に移ります”
「うわァァァ!!!」
機械はたまの首を持った新八くんにターゲットを絞っていてこちらを見ていない。気づいているかどうかもわからない。引かれた機械の手が伸ばされる刹那、私の体が動く。手にしていたモップを、新八くんと伸ばされた手の間に割り込ませた。
ーガキィイン と金属がぶつかる音が響く。男型の機械がチラリとこちらを見たのがわかる。“邪魔者は…”その機械はそれ以上何も言わない。私は歯を食いしばって人間離れした力と対抗している。それもいつまで保つかもわからない。私が機械を防いでいる間にも新八くんは源外さんのお店に近付いていく。早く!からくり堂に!
「
さん!?」
「良いから先に!早く源外さんの元へ!ーっ!!」
行ってください、そう言おうとしたけれど。お腹に衝撃を受けて意識が遠のく。私の名前を叫ぶ新八くんの声がしたのは覚えてる。そしてもっと近くで私の名前が呼ばれた。
と、私の名を呼ぶ声が。
*****
志村新八、
の両名が前線を離脱した後、坂田銀時と神楽、定春は取り囲む機械家政婦と戦闘中だった。目的の零號機の首がこの場から抜け出たのを感知した似ー参丸伍號機(くりんちゃん)が指示を出す。その開いた口に、神楽は番傘の先端を押し込んだ。銃になっているそれが火を放つ。すると鈍い音を立てながら家政婦は金属の塊となり地に沈んだ。それを合図に残りの家政婦が一斉に神楽の方へ攻め込んでくる。
「神楽ァァァ!早く乗れェェ!!」
定春に跨りながら銀時が手を差し伸べた。「銀ちゃ…」神楽が手を伸ばす。阻むように誰かが彼女の足首を掴んだのだ。彼女が驚き振り返ると鉄屑になったはずのくりんちゃんの手。注意が逸れた一瞬、すれ違いざまに銀時は神楽の手を掴み引く。彼の胴体にしがみつくような形で神楽を救い出す。
“逃がしませんの~
「離すネ!!しつこいアル!!この!この!」
手の力で体を支え、自由な方の足でくりんちゃんの顔を蹴る。しかし相当な馬鹿力のためかビクともしない。やがて表皮の塗装が剥がれ始めた。頬の一片から始まった捲れは顔中に広がる。やがて繰り返し衝撃を与えている左半分の塗装が剥離した。
“邪魔者はお掃除ですの~”
表皮塗装が剥離した状態で、可愛い声を繰り返す姿は動く人体模型を超えるホラー以外の何物でもない。少女の叫び声が響く。「どけっ!!神楽ァァァ!!」銀時は叫びながら手にした木刀を器用に振り上げた。軌道は機械の首を捉え頭と胴体が真っ二つに離れる。支えのない首が転がった。しかし頭が無くなっても胴体部分は神楽の足を離さない。
「急に失速してらァ!?定春ぅぅぅ!」
「どうしたアルか!!!」
二人を乗せたまま走り続けていた定春が前足を踏ん張り急激なブレーキがかかる。状況が飲み込めないまま慌てふためいていると、全身の毛を逆だたせて力む定春が大きな音を立てて排便をしたのだ。ちなみに久しぶり見るサイズ。突然の出来事にこちら側の二人は声を失った。
「「…」」
道端に突如現れた排泄物。転がったままのくりんちゃんの頭が反応した。
機械的なアラーム音と共に、排除を命令する声。周囲を取り囲んでいたはずの家政婦は皆モップを手に排泄物の方に駆けていく。「でかしたぞ定春!今のうちだ!!」そう銀時が叫ぶと軽快な速度で視界が動き始めた。残りの家政婦はこちらに向かってくるが、スッキリ気分爽快な彼の速度には敵わない。そのまま機械家政婦の姿はあっという間に小さくなりやがて見えなくなった。
その様子を高いビルの上から見下ろしていた影が、ひっそりと消えた。
ここでぱっつぁんと夢主側、銀と神楽側に分かれます。
20210308*星宮はちこ 裏語