レプリカ虚像乙女
【第九章、亀裂 七十九話、人生はゲームだ】


時は年末大晦日。人々は年末の特番を見たり、蕎麦を食べたり……はたまた初詣に繰り出す準備でもしているのだろうか。それらとは一切無縁の万事屋はお仕事の真っ最中だ。
何でも元旦に大人気のゲームが発売するらしい。その買い物代行の依頼が数件入って来たというわけで、万事屋総出で購入列に並んでいる。本当なら神楽ちゃんに新八くんなど、未成年組にはお家でゆっくりしていてもらいたいところだが、購入制限と依頼件数の関係で彼らにも並んでもらっている。複数人で並んでいることのメリットと言えば荷物を預かってもらえたり、ある程度自由に列を離れられるということだろうか。冬空の下、外に並んでいた私は一度列を離れて近所のコンビニで厠を借りていた。もちろん銀さん達三人には断りを入れている。お腹が減ってないだろうか、あるいは夜風に体が冷えてないだろうか。心配は尽きずこのまま手ぶらでは帰れないと、温かいカフェオレを買って帰る事にした。

「えーこちらが長蛇の列です。すみませーん!OWeeを買うためにいつから並んでいますか?」
“昨日の晩からです”

年末年始に起こったゲーム好き最大のイベントにテレビ局も取材に来ているらしい。テレビカメラの取材陣の背後を通ってもっと前へ。確か銀さん達は、あそこらへんにいたはずだ。と、あれ何で銀さん達がいるであろう位置からもくもくと煙が出ているのだろう。何事だ。ボヤ騒ぎ?


「あの……焚き火とかそう言うのはご遠慮下さい。他のお客様の…ゲホ!ゴホッ!」
「寒いんスよ。暖をとるくらい勘弁してくれよ」
「いや……暖ってね……。ちょっとしたボヤ騒ぎなんですがゴホッゴホッ!」


火の元にいたのはまさかの万事屋の三人組だった。私が列を離れた後に何をしてるんだろうか。パチパチと薪の火が爆ぜる音が聞こえてくる。関係者……とも思われたくない。このまま他人のふりをしたいところ。私は遠巻きにその姿を見ていた。
焼けたぞ、と銀さんが炎の中から取り出したのは食パンと白い塊。パンの上に塊を乗せると形を崩したそれがドロリと垂れてくる。何あれ美味しそう。塊はどうやらチーズのようで美味しそうな匂いが漂ってくる。熱さに耐えながらハフハフと頬張る姿は、夜通し並ぶ若者の胃袋を刺激するには十分すぎた。周囲の関心が彼らの食べるパンととろけるチーズから離れない。そこで銀さんが、前の人限定で順番を代わってくれたら食べさせてあげると言うものだから、列に多大な混乱が生じてしまったのだ。必死に抑えようとする店の従業員諸々、数十人が病院に運ばれて行く。……。


「ちょろいもんよ。お、帰ってたか」
「銀さん。アレ何なんです」
「意思の弱いもの達を蹴落とすサバンナの掟だ」
「アルプスじゃないアルか」
「暑くても寒くても弱肉強食には関係ないんだよ」


そう言いながら、元いた場所から数メートル前進した万事屋。しかし先頭までの道はまだまだ遠いのが現実だ。


「ったく何が悲しくて大晦日にガキのオモチャ買いに並ばにゃならねーんだよ」


それも仕事のうちだと、新八くんが言い聞かせている。私は買って来た温かいカフェオレをみんなに渡した。「あったかいアル」渡して早々ぽっぺに当てる神楽ちゃんの可愛さ無限大。銀さんも糖分補給とばかりに直ぐに飲んでいた。ちなみに彼のカフェオレは練乳入りの甘いやつ。糖分の控えなければいけない彼の健康を考えてもかなり譲歩した。

ゲームの購入依頼が五件。購入するはずのゲーム機の購入制限は一人一台。私に銀さんに神楽ちゃんに新八くん……と、四人しかいないのはここだけの話。そもそも、入荷台数も知らないから手に入れられるかもわからない。このまま何事もなく時間が過ぎて、販売開始を迎えられたらいいなと思う。
世も末だと嘆く銀さん。そんな私達の耳に困惑する店員さんの声が届いた。

「あの、お侍様。申し訳ございません……」

何だろうかと身を乗り出して前を覗く。と、長髪の男性と真っ白なオバQがコタツに座って鍋を突いてるではないか。あれ、確か桂さんでは?


「銀さん銀さん……」


手を添えて桂さんがいる方向を指差す。ってか、なんでこんな道の真ん中でコタツ広げてんだろう。いや、焚き火してた万事屋が言えることではないか。コタツの端を持ち列から遠ざけようとしている店員さんと、コタツを押さえる桂さんの攻防が続いている。「エリザベスがまだ食べてるでしょうがァァァ!!!」との桂さんの叫び声に、隣の三人が無言でスタスタと歩き出した。何だ。彼らは何をしようとしているのか。そしてそのまま桂さん達が囲んでいたコタツを蹴り上げてその位置に入り込む。ひっくり返った鍋が桂さんに降り注いだ……熱そうだ。そしてエリザベスは何事もなく座り続けている。あの中身がどうなっているのか、未だ知らない。
神楽ちゃんに呼ばれて私もその位置に進んだ。


「やりましたね。これで十番くらい前に進みましたよ」
「まだまだ先は遠いアルな」
「えっと、これはこれでいいのかな……」
さん。気にしたら負けです」
「そうネ。あーなったら終わりヨ」


鍋を被りながら桂さんがあれこれ抗議をしている。無理もない。ちなみに彼はここにファミコンを買いに来たらしい。ファミコン。……。これOWeeの列ではなかったけ。そう告げる間も無く、二人がマリオとルイージの話で盛り上がっている。仕方がないので懐からハンカチを取り出し、汁まみれの桂さんを拭いてあげた。

「大体お前、変装もせずにんな所にノコノコ出て来やがって。指名手配犯だってのを忘れたか?」
「フン!年末にこんな所にいるヒマな警察などおるまい」

ヒマな革命家はいるんですね、新八くんの冷めた突っ込みが染み渡る。桂さんは、私を追っているような過激派の攘夷組織ではないものの、革命家……桂派や攘夷派と名乗る穏健派攘夷組織の一員なのだ。以前はもっと過激なこともしていたらしい。そして今も真選組に追われる立場にあるらしいのだが。時々、世間とのズレを見せて突っ込みたいことはあるものの、マユゾンの一件で助けてもらったりと悪い人ではないのはわかっている。


「ああ、すまない。もういいぞ殿。このハンカチ……洗って返そう」
「え、いいですよ」
「いやこれも武士の礼儀だ。必ず届ける」


そう言いながら桂さんが私の手を握って離さない。えっと……手。どうするべきか迷っていると、銀さんが「はい終了ォ」と私と桂さんの間に割って入ったのだ。そのままがっしりと銀さんの壁が聳え立つ。銀さんの背中はとても大きく逞しい。

その時、「申し訳ございませんお客様」と再三の断りが届いた。まだこの列に訳ありのお客がいるのだろうか。前を覗き込むと、人が一人入り込める大きな桶から湯気が立っているではないか。五右衛門風呂だろうか。それにあれは沖田さんに近藤さんでは。

「んだコラ。こっちは徹夜で並んでんだ。風呂ぐらい入りたいだろ」
「やめろ総悟。すんませんスグ終わるんで」

真選組の二人なのは確定した。しかしこんな列でお風呂なんて……、いやもう焚き火をしている万事屋が言える立場ではないけれど。風呂の端を持ちながら店員さんと近藤さんの攻防が繰り広げられている。


「まだあそこ洗ってないでしょぉーがァァ!!!」
ーゴシャアアア!!!


近藤さんの叫びが響いた瞬間、どこからか現れた土方さんが五右衛門風呂を蹴り上げていた。重いはずの風呂はひっくり返り、物凄い勢いで近藤さんと沖田さんを巻き込んで後方に転がっていく……私は何も見なかった。
桂さんと真選組は追われる者と追う者の関係だ。とりあえず桂さんの存在がバレたらマズいのである。どうか見つかりませんように。
「あ!こっちに気づいた!!」新八くんの声で顔を上げると、土方さんと目が合った。これヤバいやつでは。


「ヅラ。早くコタツの中に隠れるネ」
「ヅラじゃない桂だ!!」
「コタツ整いました!!桂さん早く!!」


そう言って私はコタツの中に桂さんを押し込む。容疑者秘匿の罪に問われるかもしれないけれど、桂さんはそんな悪い人ではないから……せめて逃げ延びてもらいたい。空いた三方に銀さんと神楽ちゃん、新八くん、私が入り込んでカモフラージュ。そう大きくはないものの人一人分中に入っていても問題はないらしい。申し訳なさ程度に足を入れると人の気配を感じる。少しだけ我慢して下さい桂さん。

「てめーらこんな所で何してやがる」
「そのセリフ、そのままバットで打ち返してやるよ」
「そのセリフをさらに……」
「その……」

もういいですしつこい、と突っ込んだのはもちろん新八くんだ。彼のツッコミも絶好調。
いつの間にか私の後ろに土方さんが立っていた。


、退院しても元気そうじゃねーか」
「はい。おかげさまでお仕事真っ最中です」


あの機械家政婦の一件で私は入院をしていた。けれど身体のどこにも異常は見られなかったので、経過を観察してから早々に退院したのである。もう随分と昔のことのように感じるけれど。


「土方さんや真選組のみなさんにはご迷惑をおかけしました」
「俺ももうちっと顔を出したかったんだがな。彼処の看護師……特に婦長には相当根に持たれてらァ。まあ元気そうなら何よりだ」
「お気持ちだけで十分です。それに、沖田さんがちょくちょく顔を出して下さってましたから」
「はァ?そう言えば、前に意欲的に巡察に出てやがったな……」


沖田さん。もしかして巡察の最中、仕事ほったらかして病院に来てくれてたんだ。それはそれで彼らしいと言えばそうなんだけど。バレたらお説教だろうな。これも土方さんには申し訳ないけれど内緒にしておこう。何かを言いたげな表情を見せる鬼の副長……何だろう。
「さむさむさむ!!!あ、コタツだァァ!!」と、後方から物凄い勢いでペタペタと走ってくる影が二つ。近藤さんに沖田さん。どうやら吹き飛ばされた先から戻って来たらしい。ちゃんと髪を乾かしたのだろうか。下手に濡れたままなら風邪を引いてしまうだろうに。「ちょっと入れてくんない!!」彼らはコタツと万事屋の存在に気付いたようだ。


「あ、勝手に入んなヨ!!」


神楽ちゃんの声も無視してそのままコタツの空いた位置に入り込む。桂さんが中にいるの……大丈夫だろうか。もし彼が見つかれば、目の前で逮捕劇繰り広げられるかもしれないのだ。ガタガタとコタツが揺れる。と、

「ひ!?」
「おいどーした?」

誰かが私の足首を掴んだのだ。いや、恐らく桂さんなんだけど。平常心を保ちつつ銀さんには誰かの足が当たってしまって……と答えておいた。彼は何だか納得していない様子だったけど。私の足首を掴んでいた手が足沿いに上がってくる。

……だから何これ。

そのままモゾモゾとコタツ布団が動く。私の曲げて横に流した膝の上に乗っかるのは頭。僅かな隙間から桂さんの顔が覗く。「殿。ヘルプだ……中は揉みくちゃなのだ」小さい声でそう呟きが聞こえる。いや、私の後ろにはもれなく土方さんが立ってるんですけど。

大丈夫?バレてない?

今一度布団に体を寄せて自分の上半身で桂さんの存在を隠す。両手を布団の中に潜り込ませて桂さんの肩を引っ張る。少しだけ私側に彼を引き上げておこう。



「何々?お前らもひょっとしてあのゲーム買いに来たわけ?ヒマな奴らだな〜」
「近藤さん。そのセリフは俺たちにも降りかかってくるんでやめてくだせェ」
君までこんな夜半にご苦労なことで。夜更かしは美容に悪いぞ」
「あはは……」


返す言葉もない。「でも残念でした〜」と近藤さんの陽気な声が響く。曰く、このお店に入荷されたゲームの在庫は百八台だけとのこと。え、少なくない? なんて心配になってしまった。ざっと前を見ても百人以上は並んで入るのが伺える。列でいう所の、土方さんがいるあたりで在庫が切れるだろうとのこと。

「(土方さん。ここにいるんですけど)」

彼は私の後ろに立って入るのだが。お二人は気づいていないのだろうか。後ろにいたはずの土方さんが私の隣に座るとモゾモゾとコタツに入り込む。私の膝上には桂さんがいる。

これバレない?

大丈夫だろうか。私はコタツ布団の隙間を無くして、中に潜む桂さんが見えない様に必死だった。近藤さんの話によると彼らは朝から並んでいるらしい。「なぁ、トシ!!」と真横にいる彼に向かって同意を取る。

「……アレ?何でここにいるんだトシ?」
「寒いから」
「何で順番確保してくれねーんだよ!!朝から並んでたのパーだろうがァァ!!」
「ったく、お前らの頭がパーだ」
「全くネ」

近藤さんはスナックすまいるのキャバ嬢にOWeeのプレゼントをおねだりされていたらしい。回想の最中、お妙さんの言葉がもはや脅しに聞こえるのは気のせいではない。新八くんなんて突っ込みで「恐喝」なんて言葉を使ってしまっているし。ちなみに、土方さんの代わりには山崎さんが並んでいるとの事。だが彼は列を抜け出し私たちの後ろでカバディに取り組んでいる。と言うかさっきから見えていたけど、私は黙っておいた。結局バレて怒鳴られているけれど。
やがて時が来たのだろう。遥か前方でガラガラとシャッターが開く音がする。皆が浮き足立って顔を覗かせる。


“お待たせしました!!只今時刻は十二時になりました!!弁天堂OWeeの販売を開始いたします!!並んだ順に慌てず駆けず、係員の指示に従いお一人様一個だけお買い上げいただき……”
「ちょっとみんな!?」


係員が販売開始を宣言したと同時、和気藹々とコタツを取り囲んでいた面々が風のような速さで販売口の方へと走っていく。列とか順番とかもはや関係ないらしい。
係員を押し退けて我先にと手を伸ばす銀さんに土方さん。後には神楽ちゃんに沖田さん、近藤さんが続く。そんな彼らに触発されて、並んでいたお客さんが列を崩してヨドバツキャメラに乗り来む。もう暴動とか略奪とかの騒動になりつつあるのだ。私は一人離れた位置にあるコタツに取り残され……いやだから膝の上には桂さんがいるのだけれど。


殿。ここは危険だ、コタツごと俺を運んでくれ」
「私一人では無理です」
「大丈夫だ奴がいる。オイ!エリザベス!!!」


桂さんがそう叫ぶとどこに隠れていたのやら……例の白い生物、エリザベスが顔を出した。「俺とコタツを頼む」桂さんが言うと、プラカードで“そっちを持ってください”と頼まれる。ええい仕方がない。私は静かに頷いた。
二人して重いコタツを運んでいると、騒動の収束を狙って店内で新しい取り組みが発表されている最中だった。奥にある特設会場になだれ込む購入希望者の数々。我々も流れに乗ってコタツを運び込む。普段ならコタツの搬入など考えられないことだが、発売開始の混乱に乗じて誰にも止められることは無かった。
後ろ過ぎず全体が見渡せる位置にコタツの設置が完了した。ちなみに中々の重労働だったのは言うまでもない。


「お前らァァ!!ゲームがそんなに欲しいかァァ!!だったらゲームで勝ち取れェェ!!」


中では奇天烈な格好をした人が雄叫びを上げていた。天人ではなく人間。ちなみにこの店の店長さんらしい。はご苦労様ですと心の中でつぶやいた。
曰く、OWeeを手に入れるためにある催しを開催する。真っ先に店に入った銀さん達三人と真選組の三人でゲームで対戦してもらうとのこと。そして周囲を取り囲む購入希望者はどちらのチームが勝つかを予想し、的中させた人にはゲーム購入権が得られる……という。よもや順番とか一切関係ない話になっている。

「おいガキども。そんなにゲームが欲しいか?だったら俺たちに賭けな!!」
「オイオイ!いいのかそんなに簡単に決めて。痛い目見ることになっても知らねーぜェ」

対峙する万事屋三人と真選組三人。いつも以上に顎がしゃくれているけれど……わざとだろうか。もはや別人になってない? ここにきて万事屋と真選組で対決だなんて。大人しく事態が解決するとは思えない。今の間に桂さんには逃げてもらうのがいいのではないだろうか。チラリとコタツを盗み見ると、男は未だ中に隠れているのだろう。シンと静まり返り中に人がいるのかもわからないくらいだ。もしかして、事態を先読みして逃げたとでも。中を覗き込みたいけど、人目を惹く行動は控えなければ。桂さんのためにも。
私の心配をよそに、周囲のお客は笑いながら勝者予想を始めてしまった。


「おい!もちろん俺らに賭けんだろ?」


銀さんがそう言って勝者予想の投票用紙を投げて来た。弧を描いて近づく紙と鉛筆を両手で捕まえる。落としそうだったから必死だったのはここだけの話だけど。


「いいのか。俺ら真選組にしときゃお前の分は確保できるぞ」


土方さんの誘惑の声が重なる。確かにどちらの実力も知っているからこそ甲乙つけがたい。実力と言うのはあくまでも戦闘の話で、ゲームの方は詳しくないからどちらがいいのかとかはわからない。

もうどうにでもなれ。

私は必要事項を記入して万事屋チームに投票する。真選組の皆さんごめんなさい。これでも一応万事屋だから。万事屋が勝てば優勝賞品としてゲーム機が貰えるらしいので、私の分も合わせて四つは確保できる。一応依頼あっての購入だから仕方がない。



「桂さん、大丈夫ですか?苦しくないですか」


覗き込むことは出来なかったけど、念のためコタツに向かって声をかけた。中にいないなら返事はないはずだ。そうであってほしいとどこかで期待していた。だって万事屋と真選組に止まらず、ここに桂さんが混ざってしまえば大ごとになりかねないから。もう本当に混ぜるな危険状態。

「ああ……ちょっとヒゲが、こうか」

あ、やっぱ逃げてないらしい。これからどうなるのだろう。少し心配だ。
それに桂さんにヒゲなんて生えてたっけ。見えないコタツの中では何をしているのやら。

例の店長により一戦目は「バキボキメモリアル」というギャルゲー、いわゆる恋愛ゲームでの勝負が発表された。主人公の男を操作し対象の女の子を先に落とした方が勝利とのこと。ゲームには一切詳しくないのでどんなものか想像できない。近藤さんはこう言ったゲームが得意らしい。相手が得意なゲームで対決なんて……頑張れ万事屋!! 声を出さずに心の中で応援した。


「フフフ……アハハハ!!!」
「桂さん!声!!バレちゃいますって」


隣のコタツから高らかとした笑い声が聞こえる。私が必死に運び込んだ努力が。
「誰だ!!」近藤さんが叫んだ。私の制止する声も届かず……コタツが盛り上がり後ろに吹き飛ぶ。

「なに、ただのしがない配管工だ」

真っ赤な帽子とシャツにジーンズのオーバーオール、いつの間に付けたのかひげ面の……桂さん。突然の乱入者に会場中が盛り上がっている。どこから持ち出したのかもわからないキノコを食べている姿は、まるで例の有名ゲームキャラクター……のように見えなくもない。ただし声を発せばただの桂さん。似せているけれど、ぶっちゃけ見た目もコスプレしている桂さん。ああ万事休す。
そして、いつものノリで“自分は桂である”とバラしそうになったのを止めたのは新八くんだった。一方の桂さんは変装のために付けたヒゲが飛んで大慌ての様子。慌てる所そこじゃないって!! 「オイ、そこの」なんだかんだやっている間に土方さんが近づいて来ていた。これ、まずい展開ではなかろうか。


「新八くん。……もしもの時は私が土方さんを足止めするので、桂さんを裏口までお願いします」
「わかりました」


これで、バレてしまった時は逃げる時間くらい稼げるだろう。バレないのが一番だけど。もしもの時は、躓いたことにして土方さんに飛びつき足止めするつもりだ。その時がいつくるかもわからないから、近づいてくる土方さんにタックルする気満々に構えている。


「あの……後でサインとかもらっていいスか。マリオって……ついでに十四郎くんへって書いて欲しいんですが」
「「……」」


何だこの展開。どこをどー見てもヒゲを付けた桂さんなのに、土方さんは目の前に立つコスプレマリオを本物と信じてしまっている。私と新八くんは黙ってサインを強請る鬼の副長を眺めていた。だがサインも写メも断れられ、最後に握手をすることで折り合いがついたらしい。土方さん……。
もう早くこのままゲームの対戦が始まればいい。私が半ば諦めながらそう思った時、沖田さんの声が聞こえるて。騙されるな、と。その真剣な声に私は動揺し、冷や汗をかいていた。

「いけやせんぜィ。本物はあっちだ」

彼が指差す先には緑の帽子を被ったひげ面のエリザベス。もう何だこれ。いったい何がどうしたらこうなるのか。見た感じ人間でもないのに……。素人の私にだって、一目見て偽物だと気づく存在感。まあ桂さん的には、この場をやり過ごせていいのだろう。私はそう思うことにした。

そのまま一戦目のギャルゲー対決は、桂さん改めカツオと近藤さんで執り行われることになった。この勝負……一体どうなることやら。


新章、亀裂。不穏なタイトルと共に。
20210612*星宮はちこ   裏語