レプリカ虚像乙女
【第九章、亀裂 八十二話、無罪有罪冤罪贖罪】
それから数日後のある日。銀さんは長谷川さんと会うために朝早くに万事屋を出た。以前言っていた依頼の件だ。仕事に忙しい長谷川さんは朝にしか時間がないらしく、ついでに万事屋や喫茶店などでの接触も控えたいとの要望があったらしい。しばらくして戻ってきた銀さん曰く、電車内で依頼を告げられたらしい。
「浮気調査ァ!?」
と、内容を聞いて思わず声が上ずった。長谷川さんには奥さんがいて、今は別居している状態なのは伺っていたのだが。まさか万事屋への依頼が浮気調査だなんて思いもしなかった。長谷川さん曰く、就職が決まった報告のため奥さんに連絡した所……向こう側から男の声がしたのだと言う。それほどまでに、男性と楽しそうな雰囲気が伝わってきたのか……わからないけれど。
「それで、調査はどうするつもりですか」
「嫁さんの方を張る。ただの男友達って線もあるからな。内容が内容だから新八と神楽には伏せとくつもりだ。
、悪ぃが手伝ってくれるか」
もちろん、そう告げてから私と銀さんの浮気調査が始まった。長谷川さんの奥さん、長谷川ハツさんと言うらしい。江戸幕府に仕える高級官僚のご令嬢で、逆玉の輿だったという話も伺った。凄い。うちの家も幕府に仕えているとは言ったものの、江戸城本丸などでお勤めをする家系とは異なるからだ。逆玉の輿に乗った長谷川さんは入国管理局で責任者を務めていた時もあるとのこと。一体何があって今の立場になってしまったのか……気になるけれど本人には聞けはしない。
そして私達はハツさんが住んでいるという屋敷(中々のお屋敷だ)の前に来ていた。ちなみに調査二日目。入ることは出来ないので、屋敷の門が見える物陰に隠れて待ちぼうけ。外出の機会があれば後を追うつもりでいる。けれどいつになるかはわからない。
「おい、あれ」
彼が指差す門先にはタクシーが停まっているではないか。屋敷の中から女性と思しき人影が乗り込むとゆっくりと車が動き出す。「あれがハツさん?」顔を覗かせるも相手は既にタクシーの中。顔どころか横顔すら見えなかった。
「乗れ!行くぞ」
銀さんの愛車(原チャリ)の後ろに乗ると、小さく遠ざかるタクシーを追うように進み始める。着物を着てきたのが幸か不幸か。足が開かないので足を流して横向きに座るしかない。原チャリの後ろに乗ること自体慣れていないので、私は銀さんの腹に手を回して必死にしがみつく。落ちたら大怪我だろう。
「いやァー
ちゃん。手ね、いいんだよ。良いんだけど銀さん後ろばっか気になっちゃって運転に集中出来ないから。もちょっと緩めて。次回増し増しでいいから」
「いや無理です。落ちちゃいますって」
「ちょ、当たってんだけど」
「うゎ!!銀さん!さっきよりフラつき増してます!前見て下さいィィィ!!」
フラフラな危険運転に十分肝を冷やした後、原チャリが止まった。
前を行くタクシーが目的の場所にたどり着いたらしい。離れた位置から確認してみるとこれまた豪華絢爛な建屋が見える。「あっ……」この外観には見覚えがあった。
「ここ、予約が取れなくて有名な高級飲食店ですよ。お忍びで有名人や政治家がやってくるとか」
「ほー。昼間っから高級料理ですか。羨ましいなコンチクショー」
「でもこんな所に一人で来るはずないと思います。友人同士の会食か、或いは男性との逢瀬か」
入ったのは確認した……と言うことは必ずここから出てくる。時間差で来て時間差で帰ることもあるかもしれないけれど、お会計を済ませたタイミングで同席者と一緒に出てくるはずのが普通だろう。そこを確認する。予約者だろうか、男女のグループや女性同士が門から中に入ってくるのが見えた。どうかハツさんが男性と出てこないことを祈るばかりだ。
「昼時に料理屋の前で待ちぼうけってのも辛ェな」
どこからか美味しそうな良い匂いが漂ってくる。銀さんの言う通り、料理名はわからないけれど良い匂い。お腹がならないようにしなくては。出入口の監視を怠りはしないけれど、変化のあまりない扉を集中して見続けるのは正直辛い。頭の片隅には、今日のご飯は何にしようか……と料理が浮かんでは消えた。そこから一時間半、何事もなく時が過ぎていった。
「腹減った」
「もう少しの辛抱です。昼食だけならそう遅くはならないはず。あっ!あれ!!」
私が銀さんの手を引っ張る。視線の先には裃を着た長髪の男性とハツさん。二人並んで談笑しながら料理屋から出て来るではないか。「
、写真撮れ」との声に私は頷く。この日のために新調したカメラのピントを合わせ、写真を数枚撮影した。若い男性の隣で楽しそうに笑うハツさんの姿。
「(これを長谷川さんが知ったら……)」
そう考えるだけで胸が痛い。そのまま二人が呼んでいただろうタクシーに乗り込んだ。念のため、そう言うお店(休憩する所)に入らないか確認する為に後を追う。がそこは違ったようだ。タクシーはハツさんのご自宅前で停まった。彼女だけが降りて頭を下げ、男性とタクシーはそのまま行ってしまった。白か黒かで言うなら黒よりのグレーだろうか。男性の方は見覚えもない人だけれど、若くて小綺麗で顔も整っていた。友人にしては仲が睦まじい印象を受けた。
「どうするんですか」
「浮気調査の依頼受けちまったんだから、報告するしかねーだろな」
気乗りはしない、と銀さんも言っていた。写真を現像して長谷川さんの自宅に電話をかける……も繋がらない。無職の間は公園などで寝泊まりを繰り返していたが、就職に就いてから、会社の寮だが新しく部屋を貸りたのだか、ちゃんと連絡先を持ったと聞いていたのに。渡された電話番号が間違っているのか。ならば一緒に書かれている住所の方に行くことになるだろう。
「マダオが捕まったらしいアル」追い討ちをかけるように神楽ちゃんがどこからかそんな噂を聞いてきた。最初は何かの冗談かとも思っていたけれど、銀さんが色々調べたら留置所に「長谷川泰三」という人が、痴漢の容疑で収容されているという確認が取れたのだ。面会の申し出が受理されて、私達は長谷川さんに会いに行くことになった。
*****
厳重な持ち物検査を受けて私達は面会室に通された。分厚いガラスが部屋を隔てている。向こう側の中央には人が座る簡易的な椅子が置かれ、銀行の窓口のような小さな穴がいくつか開けられている。映画やドラマで見たままの光景。物のやり取りもできるのか下の方にも隙間が設けられていた。もちろん、差し入れする物品は全て役人によって確認されて許可を受けた後に渡されるのだが。
が視線だけを動かして周囲を観察していると、向こう側の扉が開いた。ギィ、と古びた金属の音が耳に残る。
「入れ」
男性の短い声が聞こえる。やがて、随分と痩せこけて無精髭を生やした長谷川さんが入って来た。身長が高いはずなのに猫背気味で自信も覇気も感じられない男は、どうも小さく見えてしまう。こんな印象の人じゃなかったのに。とは言え、
自体は長谷川との接点はあまりない。それこそ以前の特級危険物“RYO-Ⅱ”のウイルス騒動でお世話になっただけだ。しかし万事屋の皆は、
よりもずっと長く深い付き合いがあるように見受けられる。彼らも長谷川さんの無実を信じているのだろう。
長谷川が向こう側の椅子に座った。こちら側の椅子には銀時が座っている。面会用の椅子は一つしかないので、新八くんに神楽ちゃんそして私は銀さんの後ろに立っていた。
「縄は持って来てくれたか」
言動にも覇気は感じられない。彼が言う“縄”とはもちろんアレ用の縄なのだけれど、そんなもの渡すはずがないし持ち込めもしない。銀さんがやんわりと流している。「代わりに。ハイこれ……」そう言って例の写真が収められた封筒を差し出した。中身を知っているからか、胸が苦しい。現実を直視できない。
長谷川さんが留置場にいると知った後、結局、浮気調査の件は未成年組に知られてしまった。万事屋は四身一体だから、次は絶対誘うようにと神楽ちゃんに約束を取り付けられたけれど。内容によっては組み分けして分担すればいいだろう。汚れ作業は成人組で。
あれこれと過去を思い出している間に、長谷川さんと銀さんのやり取りは続いていた。
「殺せよォォォ!俺を殺せェェェ!!お前らもどうせ俺が痴漢したって疑ってんだろ!!」
「長谷川さん落ち着いて下さい!!」
机をバンバン叩きながら狂ったように叫び声を上げる男。私の声も届いていない。「赤の他人のお前らが……」長谷川さんがその言葉を口にした途端に、銀さんが椅子から立ち上がったのが見えた。一体何をしようとしているのか。
「バカヤロォォォ!!!」
彼の拳はガラスを突き破り長谷川さんの頬を打った。ガラスが割れた酷い音にビクリと体が反応してしまった。驚いたと言ってもいい。銀さん、拳は怪我をしていないだろうか。向こう側の長谷川さんは鼻から血が垂れている……酷い怪我だ。「オイ君!何をやってるんだ」こちら側にいた見張りが銀さんを羽交い締めにして静止を促している。だが銀さんも中々体格がいい。勢い付く成人男性を抑え込むのが限界なのだろう。
「銀さんも止めて!」
「あ?わーってるって。ったく、赤の他人ならんな所にいようが野垂れ死のうが構いやしねーよ」
そう彼は言った。赤の他人なら……その言葉に続くのは一体どんなことばなのだろうか。きっと長谷川さんの心を震わせ励ますような。そうであると期待した。
赤の他人ならこんなものは貸し借りしないと、銀さんは懐から取り出した何かを机に放り投げる。何を取り出したのだろうか。私は興味津々に銀さんと長谷川さんの間を覗き込んだ。
“厳選百連発 ―THE 痴漢―”
大々的にそう書かれたDVDが置かれている。電車内に立つ女性の後ろには手を伸ばす
男の人。彩度の高い色をした卑猥な煽り文句も目に留まる。要は大人向けのDVDなのである。
と言うか、何でここで大人向けDVD? さっき持ち物検査したよね? 何でこれスルーされてるの。それもこのタイミングで痴漢ネタなんて……。
私の思考が白く飛んだ。立ち尽くしたまま数秒、動けない。むしろ動けないと言った方がいいのかもしれない。うん。二人とも成人男性だもの。持っていても何ら不思議なことではないはずだ。うん。性的嗜好だって人それぞれだもの。うん。もう何も言わない。
「何アルか?」
「神楽ちゃん見ちゃダメ!」
未成年の存在(主に神楽ちゃん)に気付き、私は慌てて彼女の視界を塞いだ。だがしかし少し行動が遅かったらしい。「あ……」なんて声が少女から発せられたあたり、見てしまったに違いない。きっと。私には、見たくない物を見せてしまってごめんねと謝る事しか出来なかった。
「完全に疑ってるよね!?コレもう確定してるよね!!」
こんな状況でこんなDVDを突き付けられるなんて、色々と察するには十分だろう。長谷川さんの心の叫び声が響いた。わかってる、信じてると宥められても、心の底からは信じる事はできないのだろう。本当に無実を信じてくれているのかと声が重なった。疑心暗鬼に陥っているとでも言うべきか。
「しつけーな!!信じてるって言ってんだろーが!気持ちわりーんだヨ!!」
そう吐き捨てる神楽ちゃんの目は、完全に長谷川さんをゴミと見下す感じになっていた。うん、色々とお年頃だもの仕方がないわよね。デリケートな話題にはそっとしてくのが一番だ。私には彼女に寄り添ってあげる事しか出来ない。銀さんもフォローを入れてくれている。
ペッ、と長谷川さんに唾を吐いたを神楽ちゃんを庇ってくれるのは良いんだけれど。他人に唾を吐きかけるのは良くないことだ。それはちゃんと教えてあげなければ。肝心の少女は私の背中に隠れてしまっていた。
「神楽ちゃん。人に唾を吐いたら駄目ですからね」
「これは犯罪者アル。私も汚された気分になったネ」
「犯罪者でも駄目よ。何より長谷川さんは犯罪者じゃないわ」
私達がそう確認し合っていると、新八くんが代わりに近況を聞いてくれていた。取り調べは今日で七日目。それもほぼ恐喝になって来ているらしい。否認を続けているけれど肉体的にも精神的にも限界が来ていた。彼が諦めをちらつかせる。
「俺達に出来ることはねーのか……ペッ!」
「まず唾を吐くのを止めろ」
「コラ!銀さんまで!!」
ウチの人間はどうしてこうなのだ。私は長谷川さんにかかった唾をタオルで拭う。
「
ちゃんすまねぇな。後は丈夫な縄頼むわ」
一息置いて、冗談さ、と彼は笑った。長谷川さんの体調を考えて私達は面会室から出ることにした。留置所を出るまで誰も言葉を発さない。面会室で見た長谷川さんは憔悴しきっていた。このままでは罪を認めてしまうのではないだろうか。不安が胸に広がっていく。外に出ると神楽ちゃんが傘を開いたのが見えた。
外。青空が広がっていて気持ちいい。留置所には窓はないか、あっても無機質な鉄格子がかけられているのだろう。私も長谷川さんは痴漢などしていないと信じている。無実の人が牢屋に入れられ、恫喝され、罪をきせられるなんて。間違っている。一刻も早く長谷川さんの無実を証明し、彼にもこの空を見上げながら美味しい空気を存分に吸ってもらいたい。
「そう言えば銀さん。さっき長谷川さんに渡してた写真ありますか」
「ほらよ」
銀さんは懐から写真を取り出すと新八くん渡した。
写っているこの男性……一体何者か少し調べさせてもらった。すると色々なことが繋がってきた。名前を破牙(はが)と言い、職業は検事をしているとのこと。奉行所でもスゴ腕と評判で、数ある詮議で有罪を勝ち取るエリート。真っ白に見えて……それがどこか胡散臭い感じもする。大体、既婚女性に近づいている時点でどうなのか。後ろを振り返ると新八くんと神楽ちゃんが写真を覗き込んでいる。私は二人の少し前を歩いていた。私の前には銀さん。
「相手はエリート検事。こりゃ以前のマダオならまだしも……性犯罪者に堕ちたマダオには太刀打ち出来ないアル」
「そんなことないよ神楽ちゃん。長谷川さんは金も運もないけどガッツだけはあるから。男は金じゃないからね。大体、痴漢なんてしてないから」
「現実見ろ新八。お前も金なきゃ銀ちゃんみたいなモテない男になるアルヨ。後ろに
いるけど、あんな女が側にいるなんて宝くじで一等当たるくらいの奇跡的数字ヨ。大体、今のマダオには唯一の取り柄のガッツすらない……ただのマダオに成り下がったアル」
後ろからそんな内容が聞こえてくるけど、聞かなかったことにしよう。
は前にいる銀さんの後ろ姿を眺めた。真っ白な髪に白い着物。片側に黒が出ているけれど、もし白い着物を纏ったならば、きっと赤が映える程に白く輝くのだろう。私が見た……私の脳裏に焼きついた後ろ姿。
私の命の恩人は、もしかしたら銀さんなのではないだろうか。
今まで生きてきた中で多くの人に出会ったけれど、ここまで白くて、銀に輝く色の髪の毛をした若者なんて出会ったことがない。彼がもし攘夷戦争に参加していたら……きっと疑念は確信に変わる。だが攘夷戦争に参加していたなんて今時攘夷浪士でもない限り、意気揚々と語りはしないだろう。今は表立っては記録としてしか残されていないけれど、江戸に住まう人々の負った傷は深い。戦争終結間近の頃……多くの攘夷側の浪士が処罰の名の下に殺された。逃げ延びた人ももちろんいるだろうが、参加の事実が知れ渡れば処罰されることもあるのだから。
あれこれ考えている内に、万事屋の看板が見えてきた。話し込む最後尾の二人が先に二階への階段を上がり私もそれに続く。踏みしめるほどに、カンカンと高い足音が響いた。と、
「あの、すみません。万事屋銀ちゃんはこちらでしょうか?」
一目見てわかるような上等な着物を纏った女性が道に立っている。そして既視感がある。銀さんが応対をしているとその女性は頭を下げて名乗った。
「いつも長谷川泰三がお世話になっております。私、泰三の妻のハツと申します」
あ、この人……やはり長谷川さんの奥さんだ。なんて、相手が名乗ってから思い出した。階段を上りかけた二人も女性のことをまじまじと見つめている。彼女がどうして万事屋に訪れたのか。
「どうぞ上へ。銀さんも」
このまま外にいても良くないと思ったので、とりあえず二階に上がっていただくことにした。応接間には三人とハツさんが。私はお茶を準備する。準備が整って部屋に入ると、卓上には大きな包みが置かれていた。話の内容は、最近定職に就いた旦那さんに連絡がつかないというものだ。一着しか持っていないスーツではアレだからと、就職祝いも兼ねて新調したのだという。ハツさんは私と銀さんを交互に見てニコリと笑う。
「いえ、ごめんなさいね。昔話を思い出したものだから」
彼女は包みを眺めながら語ってくれた。長谷川さんが唯一持っているスーツに秘められたエピソード。きっと二人しか知らない話。長谷川さんとハツさんの間にそんな話があったなんて。
「昔話ばかりしてしまって……これ、あの人に渡して下さい。連絡もつかないし今はもうどこで何をしているかもわかりませんので」
「ああ」
彼女が帰った後に残ったのは、形容しがたい胸の詰まりと真新しいスーツの包みだけ。ハツさんはまだ長谷川さんを想っている。だから浮気なんて……しない。「長谷川さんは痴漢なんてやってません。あれは事故だ」新八くんの声が聞こえる。
「俺はコイツを長谷川さんに渡してくらァ。奥さんにも頼まれちゃったしな」
「わかりました。私はお留守番しておきます」
内容が内容だから、二人で話した方がいいこともあるだろう。
*****
数日後、銀さんは留置所へ一人面会しに行った。そこで何があったのかも、二人の間でどんな言葉が交わされたのかもわからない。しかし、帰ってきた銀さんの表情は行きとはまた違っていたのは事実だ。居間に私達三人が呼ばれる。これから何を言われるのか。心がドキドキして落ち着かない。
「長谷川さんは事故でとっ捕まっただけだ。要は痴漢なんてしてねー。今からマダオの無実を証明するぞ」
初めからそうだと信じてたがな、とも笑っていたけど。私だって長谷川さんが痴漢をしたなんて端から思っていない。そうだと決まれば話は早い。我々、万事屋は長谷川さんの無実を証明する。ただそれだけだ。
「らじゃーアル!!」
「っても銀さん。それってどーするんですか。素人の僕たちが司法に取り入るには限界がありますよ」
確かにその通り。我々には詮議の場に傍聴人として参加するのがやっとだろう。どうすべきか頭を傾げていると「検事だ」追って彼は言った。
今回の検事を務める男と、長谷川さんの奥さんに親しくしていた男性が同一人物だった。その男、経歴に家柄を見る限りもエリート街道真っ只中で一点の曇りもない。だが、奥さんと別れるように長谷川さんに取引を持ちかけたらしい。これは面会して聞いたから間違いないとのこと。
「それって不正じゃ……」
長谷川さんが根負けして離婚届に判を押してしまったら……それこそあの検事の思うツボだ。それに、判を押したところで有罪に持ち込むことだって出来るだろうに。このままでは長谷川さんは何もかも奪われてしまう。
「綺麗な男には裏が有るネ。怪しい男は叩けば埃が出るアル」
「神楽ちゃん僕より年下だよね。何でそんな知ってる女ぶってんの……ゴフォ」
「るっせーアル!!このダメガネがァ!女の勘ナメんなァァ!!」
「新八くん!?」
彼女の拳が新八くんの頬にめり込み、体が吹き飛んだ。中々強い一発だ。いきなり殴っちゃダメよ、と言いながら私は鼻血を出した新八くんにティッシュを差し出した。ああ眼鏡がぐにゃぐにゃに曲がっているではないか。これきっと買いなおさないといけないだろうか。
「お前らは例の破牙検事を洗え。きっと何かある。問題は時間がないのと出てくる証拠をどうするかだな。詮議まで二日しかねぇ」
「弁護士」
「ん?」
私は聞いたことがある。詮議される人は弁護士を雇い、弁論を通じて奉行所に訴え無罪を勝ち取るのだと。それでも弁護士を雇うにはお金が必要。人によっては高名な弁護士を高額で雇うこともあるらしいけれど。庶民の為に役所が紹介してくれる無料あるいは破格の弁護士制度があるらしい。長谷川さんならきっとこの制度を利用するに違いない。その弁護士を通じて詮議の場で、破牙検事の悪行を訴えるしかない。
「なら、そっちは俺が何とかするわ。破牙の件、時間ねぇけど頼んだぞ」
「「「了解!!!」」」
そこから破牙検事の裏探しが始まった。
思ったより詮議まで時間なくて(詮議は二日後)……次回以降の展開どうまとめっかな。
20210711*星宮はちこ 裏語