レプリカ虚像乙女
【第九章、亀裂 八十五話、浮島サーカスへようこそ】


神楽ちゃんとお妙さんとのお出かけは今の所……楽しく、かつ問題なく過ごせていると思う。
集合場所にたどり着いた我々の背後から、滑り込むようにお妙さんの前に登場した近藤さんが、ぶっ飛ばされて空を舞っていたのは記憶に新しい。中々の勢いであったと思う。

「お妙さん、ごめんなさい。真選組の方が周囲にいるけれど気にしないで下さい」
「あらあら。これってさんのストーカーなの? ならどうして私の前に立ちはだかるのかしら。邪魔で仕方がないわ」
「姉御が居ればも安泰アル」
「お妙さァァん!!この先に工事用の穴が開あるから危ないですぞォォ……ゴッフォ!!!」

工事用の標識にめり込んだ近藤さんの横を通り過ぎて、私たちは目的地にたどり着こうとしている。視界に見えてきたのは極彩色の旗に宙に浮いた風船。真新しい通りを抜けた先には大きな橋が続いている。更にその向こうに大きなテントが見えた。


「わぁ! あれがチケットが取れないって噂の、大人気宇宙サーカスですか!!!」
「あの中にゾウやライオンがいるアルカ!? うっほー流石姉御アル!!」
「うふふ! 大変だったのよー。ゴリラに頼んでも全然役に立たないし……。そんな時に女性グループ限定の特別招待券が当たったのォ! 私の運の強さもここまで来たなんて! 本当、九ちゃんが来れなくて残念だわ」


お妙さんが町内会の抽選で奇跡的に当てたのは、開発途上の港町に突如やって来た宇宙サーカスの招待券だった。
異星の天人集団が、得意の身体能力を生かした大道芸や空中曲芸、はたまたえいりあん曲芸を行うらしい。神楽ちゃんの言うようなゾウやライオンもいるとパンフレットには書かれている。宇宙中を巡回公演した評判は上々で、此度この地球で公演を行うと触れ回っていた代物だ。公演を開始してから直ぐに人気に拍車がかかり、一般ではチケットが非常に取りにくくなっていると言う。
女性限定……との縛りがあるので、銀さんや新八くんには声がかけられなかったけれど。ちなみに九ちゃんこと、九兵衛さんにも声をかけたけれど、諸用で参加することができないとのこと。彼女は今回の事を非常に残念がっているようだ。
「すごーい!!海の上にあるのね!」お妙さんの楽しそうな声がして、私は顔を上げた。

「開発指定区域になっている浮島地区ですね」

この日の為に、少しだけ調べておいたのはここだけの話。橋を先に駆けていた神楽ちゃんが私の方を振り返り「それ何ネ?」と首を傾げた。
『浮島地区』とは、幕府が商業と観光特区として大々的に開発予定の海上埋め立て地を指している。三本の橋で繋がる海上都市は、まるで宙に浮いているように見えるので浮島と名付けられた。……と、私の予習を無視して横から近藤さんが意気揚々と語ってくれた。

「確か護衛って目立たない方が良いのよね?」
「そうですね……。まあ、抑止効果もあるかもしれないですが……」

言い終わらない間にまた近藤さんが空を舞っている。もう見なかったことにしておこう。橋を渡りきると、目の前に想像以上に大きなテントが聳え立っていた。
白いテントに開いた入り口には既に行列が出来ている。そのまま三人で最後尾に並んだ。道化の格好をした係員が列整理をしながら諸注意を告げている。

「チケットを拝見してもよろしいでしょうか」

私たちの前まで来た係員が丁寧に言った。どうぞ、とお妙さんが三人分のチケットを見せると、記載事項を確認した係員が最前列ですと伝えてくれた。少し時間がかかり、ようやく入場出来た私達は係員の言葉通り最前列ど真ん中の席に座っている。舞台が近い……と驚く位に、目の前に舞台が迫っているのだ。


「うぉー!目の前アル!!!」
「あんまり動いちゃダメよ。後ろのお客さんに迷惑になるからね」


私がそう言った時、後ろでガサガサと音がした。人が動く気配も。


「オイ、チャイナ。の言う通り……大人しくしてろよ」
「サドの言う通りだ神楽。せっかく良席で薄暗い中キャッキャ出来んだから頼むぞ」
「お前ら、本来の目的を忘れんなよ。特に総悟。俺達は遊びに来たわけじゃねーぞ」
「まあさん! 素敵なストーカーがたくさんいらっしゃいますね」


隣でお妙さんがニコニコと笑っているのだけれど、……もう笑うべき?
私たち三人の真後ろには、銀さんに土方さん沖田さんの三人が陣取っているではないか。彼らがどうしてここに。ここ、チケット取りにくい公演じゃなかったっけ。 私の表情から読み取ったのか、土方さんが警察権限で手を回して下さった事を教えてくれた。もうなんでもアリだな警察権限。そして私は、本来の護衛担当の姿が見当たらないことに気がついた。

「あれ?そう言えば近藤さんは?」

橋を渡りきる時までは近くにいたような気がするけれど。周囲を見渡してみてもそれらしき人影はない。

「ついでだからドリンク買いに行かせたのよ」

さらっとウインクしながらパシリ宣言。彼女の言葉の通り、後ほどドリンクを両手いっぱいに抱えた近藤さんが合流した。開演時刻はもうすぐだ。ゆっくりと会場が薄暗くなると同時に愉快げな音楽が響き渡る。


“江戸の皆様!私共は銀河を巡る世にも奇妙な宇宙サーカス団で御座います。ここにお越し下さったのも何かの縁……どうぞお楽しみ下さい!!!”


団長を名乗る紳士が高らかに宣言した。すると、団長の後ろから巨大な自転車に乗った象が現れる。

「わぁ!!!」

まさか動物が自転車に乗るとも思っていなかった。私の感嘆の声に重なり周囲も歓声を上げる。空気が震えるような拍手が生まれた。次は怪力の天人が硬いフライパンを軽々と曲げてそのままジャグリング。それらを放り投げた大男は炎が焚かれた松明を使って同じようにジャグリングをして見せ、最後に口から大きく息を吐いて炎を吹いた。知能のないとされたはずのえいりあんが玉に乗りながら調教師に続き、様々なポーズを決めた。突然組み立てられた箱から奇術めいて現れたセクシーな女性。大掛かりな奇術で観客の歓声を誘う。次に現れたのは同じ格好をした五人。皿回しをしながら体勢を変えて、組体操のように折り重なっていく。ついには自転車に乗って漕ぎ出したではないか。

「あれどーなってるネ!?」
「何だ。お前あれやりてーのか? だったら関節外してやるよ」
「おーい。みなさーん税金ドロが市民暴行しようとしてますよー」
「総悟!!大人しくしてろ」
「トシィィ!!今イイとこだから静かにしてェェ!!」
「うるさいわね……曲芸ゴリラァ!!」

私の周囲は特に騒がしいけれど、大々的な音楽が流れ、舞台上の演目に集中しているお客さんにはどうって事ない様子だ。一先ず、迷惑になっていないようで安心した。その間にも集団雑技の演目が終わり。人々の視線が皆上を向いていた。

“次は世にも奇妙な大小双子の演目、空中ブランコ!息の合った曲芸にご注目!”

テントのはるか上空には離れた二点間に弧を描くブランコが見えた。同じ格好をした少年。双子との事で顔は似ているが背は全く違って、一方は低く一方は高い、双子が揺れるブランコを飛んで移動した。観客の拍手と歓声が響き渡った。彼らの演目が終わると、先ほどの奇術担当のお姉さんがテント上部に張られた縄の上を、綱渡りしていた。
舞台が暗転し、一筋のスポットライトが照らし出す。
上を向いていた観客の視線が下の舞台に戻ってきた。強い光に照らされて白塗りのクラウンピエロが立っている。ピエロはパントマイムをしながら、上手側の観客の前までトコトコとやってくると自らのシルクハットから鳩を出してみせた。次は下手の客の帽子を拝借して、その中からトランプを無限に取り出す。隣にいた少年には即席で作った風船細工をプレゼント。少し歩いたところにいた客の男性の服をいじって笑いをとっている。
と、次は中央最前列の私達の前までやってきたではないか。懐から細長い風船を取り出して膨らませると、キュッキュッと縛って形作り即席の犬(プードル)を作り上げた。

「これくれるアルカ!?」

ピエロは風船を神楽ちゃんにプレゼントした。彼女はとても喜びながら風船を振り回している。……割れないか心配だ。その合間にもピエロは二つ目の風船(次は花だった)を作り上げてお妙さんにプレゼント。

「まあ!嬉しいわ」

お妙さんは満更でもない様子。後ろで近藤さんが歯ぎしりをしながらピエロにガンを飛ばしている。余程悔しいのだろう。

「?」

彼(ピエロ)はそれに気づいた様子で、声は出さずにアッハッハと動作で示した。再び懐から取り出した黄色い風船を、プウプウ膨らませて何かを仕立てているではないか。やがて出来上がったのは……バナナの房だった。何故にバナナとか私が思っていると、道化はそのままそれを近藤さんにプレゼントしたのである。

「おのれこのピエロォォ!!お妙さんの前で完全に俺を虚仮(こけ)にしてやがる!!」

あ、そういう事らしい。何となくピエロの意図は伝わってきた。


「おいおいおい。オタクの大将イイもん貰ってんじゃねーか」
「近藤さん似合ってまさァ」


後ろでは銀さんと沖田さんが大盛り上がりをしている。周囲の観客の笑い声も聞こえて来た。視界の袖から、最初の挨拶が終わってから脇にはけていた団長が出て来たのが見える。手にはマイクを持っている。今から何かが始まるらしい。
クラウンピエロは私達の前から舞台上に戻ろうと踵を返す……が、片手をもう一方の手に打ち付け何かに気づいた動作をしてこちらを振り向いた。そして私と思いっきり目が合ったのである。

「……」

そのままトコトコと私の前まで歩いてくる。向こうは無言なので表情を読み取るしかないのだが、今のところは何もわからない。
何だろうかとジッと眺めているとピエロが胸元からハンカチを取り出すと握った自身の手に押し込んでいく。うんうんと、力を込める動作をしている。左右からお妙さんと神楽ちゃんが身を乗り出して「オォォォ!!」と盛り上がっていた。

ーポンッ

と、ピエロの手から現れたのは花だった。さっきまで押し込めていたはずのハンカチは無い。差し出された花を手に取る。

「くれるんですか」

そう尋ねるとピエロがニコリと笑った。そのまま左右の手からポンッポンッと幾つも花を出現させて、一本を私の髪に差し込み、残りを束にして私の手の中へ。


「こんなにたくさん……ありがとうございます」
「おうおうおう、白塗りさんよォー。に色目使ったらこの銀さんが許しませんよォ」
「そうでさァ。ってか、その白いの。閣下の許可取ってんの? いけないんだなぁー閣下の許可取らないと。相手はこの地球の悪魔ですぜ。ピエロには勝ち目ねーや。ね、土方さん」
「いやそこはバカ殿だろ? オイそこの、ちゃんと許可取ったのか?」
「多串くん。わかってねーな。バカ殿は一国の殿様止まりなんだよ。それに比べて閣下は地獄のお偉いさんなんだから。サタンやハーデスとツーカーなんだよ。偉いんだよ」
「誰が多串だゴラァ!!」


乗り出して来た銀さんが私の肩を抱きつつ反対側からは沖田さんまで。座ったままの土方さんまで応戦してきて……もう後ろが喧嘩腰でカオスだ。護衛どころか新たな問題を起こさないでもらいたいけれど。何なら穏便に済ますのがいい。周囲のお客さんに迷惑にならないのが一番。

「お騒がせしてます行ってください」

苦し紛れにピエロにそう伝えるとパチリとウインク残して舞台上に上がって行った。「あのピエロこのヤロー」なんて恨めしい声が後ろから追って聞こえてくるけれど気にしたら負けだ。


“ハッハッハ!今日はピエロもご機嫌のご様子。さて、ここから観客の皆様に曲芸を体験していただくコーナーです。安全に配慮しているので誰でもご参加下さい!!”


今まで曲芸を披露していたサーカス団員が次々と登壇し一列に並んでいる。彼らの曲芸は素人には到底出来るはずもないモノ。それも日々の厳しい鍛錬あっての成果なのだが、初心者でも出来るような簡単な技を体験出来るらしい。周囲からも期待の声が上がった。
先ずは動物曲芸師。参加者を募る挙手を求める声がかけられる。と、「いい加減にしろォォォ!!!」とのお妙さんの叫び声が横から響いた。同時に、投げられた近藤さんが舞台上にボトッと音を立てて落ちた。


“こっ…これはこれは!やる気満々のお客様がいらっしゃいましたので、この男性に体験していただきましょう”



いつの間にか近藤さんの動物曲芸体験が決定していた。本人はスポットライトに照らされてキョロキョロと周囲を見渡し、何が何だかわかっていない様子だけど。怪我しないならいいけれど。

「頑張れーゴリラー」
「近藤さんファイトー」

やる気のないような声が後ろから届く。
動物曲芸師の横にはボールに乗ったゴリラが三匹。さっきはえいりあんだったけど、安全を考慮するとこうなったとのこと。さっきの演目みたいにこのゴリラに合図をして色々なポーズを取らせる役か。そう思っていると隣に大きなボールが用意された。あれ、なんか違っただろうか。
曲芸師が近藤さんとコソコソ話し込んでいる。要所要所で頷く姿も見える。一体何をする気だろう。軽快な音楽響き渡ると曲芸師がマイクを手にする。


“人間とゴリラのコラボ曲芸です”


合図と共に近藤さんがふんどし姿になって大きなボールに乗った。笛を鳴らすとボール上でv字に開脚。「おぉおおおおお!!!」周囲の観客は湧き立っているけれど……もうどこから突っ込めばいいのかわからない。こっそり後ろを振り返ると、土方さんも私と同じような表情をしていた。額には冷や汗が流れているようにも見える。ここまできてアレだけど、これだけは言わせてほしい。

四つあるボールの上で近藤さんが一瞬どれだかわからなかった。

あっちのゴリラ、いやこっちのゴリラ? 私の目が馬鹿になっているのか。歓声を浴びるがまま、三匹+一人のゴリラはボールの上でポーズをとっていた。どうしてだろう。意外と息が合っている。曲が変わると私たちの前に出てきたのは火が焚かれた輪っか。いわゆる“火の輪くぐり”だろう。調教師の合図と共に始めのゴリラが走り込んで綺麗に輪っかを飛び抜ける。二匹目、三匹目のゴリラも後を続く。

「わぁーすごーい」

左右を挟む二人から感嘆詞が上がった。その声を聞いてだろうか、最後のゴリラが少しばかり興奮しているようだ。駆け出した最後のゴリラが舞台を飛び上がる。そのまま輪っかを飛び抜けたのだが、僅かに触れた輪から火が移ったのだろう。お尻から煙が上がっている。

「ん?ケツ毛に引火したァ!?誰かお水ぅぅぅ!!!」

あ、最後のゴリラ……近藤さんだった。てっきり本物のゴリラだと思っていたのはここだけの話。もちろんみんなには内緒だ。
舞台上を駆け回っていた近藤さんは、何を思ったのか私たちが座っている位置に向かって迫ってくる。「助けてェェェ!!」 彼の叫び声に反応して、私の周囲の面々が一斉に手に持った飲み物を投げ、それらが見事近藤さんに直撃(顔面にも)して炎は鎮火した。普通ならばこれは大事故なのだけど、観客はそれをも演出と捉えたのだろう。大いに盛り上がっている。


「これはこれで、いいのかな」
「いいアル」
「あら?気にしたら負けですよ」


次は集団曲芸師の皿回し体験だ。参加の声がかかった途端に「ハイッ!!私やるアル!!!」と神楽ちゃんが大きく声を上げて無事に選ばれていた。彼女以外にも子供が何人か選ばれている。曲芸師一人がそれぞれの体験者に付いてコツを教え、団長の声と共にクルクルと細長い棒の先で皿が回る。

「こんなの簡単ネ。にーちゃんそいつも貸すヨロシ」

そう言って彼女は一人一本だった皿回しを、左右の手にそれぞれ持っていた。


「すごい!!神楽ちゃんが一気に二本も回してますよ!上手!」
「チャイナは怪力だけが取り柄ですぜィ」


曲芸を体験している神楽ちゃんの表情はとても楽しそうだった。皿を曲芸師に返すと、気分が良くなったのか、そのまま裏にあったであろう松明を持って出て来た。そして例の怪力天人の如く、胸一杯に吸い込んだ息を思いっきり吹き付けた。

「!?」

が、何かが足りなかったのだろうか。炎は吹き付けられた息の通りに伸びずに、そのまま吹き消えたのだ。神楽ちゃん本人もこれには驚きの様子を見せている。
いやしかし、あれだけの炎を吹き消せるなんて……相当の肺活量であろうことが伺える。それを見ていた大男も、対抗するように、松明の火を息だけで消してみせた。観客の拍手が響き渡る。

「全然うまくいかなかったアル」
「そんなことないですよ。神楽ちゃん、とっても良かった!!」
「本当アルカ?」
「ええ」

舞台から戻ってきた彼女にそう告げる。恥ずかしがりながらも、神楽がえへへと笑った。可愛い。彼女の頭を撫でていると、サーカスの団員が先の片付けを終えて次の体験曲芸の準備を整えていた。大きな梯子が見える。

“では次の体験です……”

次は空中ブランコの体験らしい。勿論、危険性が無いように命綱を着け、下には網も張られるようだ。ハーネスの大きさや安全性の観点から、体験者は大人だけだとアナウンスされた。着物の女性もご遠慮くださいとのこと。命綱があるとはいえ、あの高さからブランコに手をかけて飛び降りるのは勇気がいるだろう。今までは希望者がサッと手を上げ殺到していたのだが、今回は皆、尻込みしている様子がうかがえる。

「よっし、ここは土方さんの出番でさァ。はーいすんませーん!!この人が参加希望してやすぜ」
「オィちょっと待て!!」

有無を言わせずに、沖田さんがアシスタントを申し出て土方さんを引っ張って舞台に上がっていく。この二人が一緒に曲芸体験だなんて……何かありそうなことは屯所にいた時から学んだ。最初こそ抗議していた土方さんだけど、何やら沖田さんに耳打ちされて落ち着きを取り戻している。いったい何を伝えたのだろうか。
土方さんは最初に空中ブランコで飛び出し、次のブランコへと飛び移る役。団員の注意事項やらを聞いている。何だかんだ嫌がっていても真面目に取り組むするあたり、土方さんの人柄が伺える。しかしその裏で沖田さんはコソコソと安全ベルトの金具を触っているではないか。



「ってことで総悟。お前は終ぇの対処をだな……ってオィィィ!!ブランコの金具に何しかけてんだァァァ!!」
「いや、怪しい組織が土方さんの命を狙っているかもしれやせんのでね。念のため俺が確認をしてやさァ」
「俺の命狙っているのお前ぇぇ!!オイ万事屋、俺と代われ!!」
「いやそれ落ちて死ぬやつだからね。いくら俺が撮れ高良くてもそりゃねーわ」



舞台と私の後ろでとんでもない口論が繰り広げられている。サーカス団員の方々も苦笑しながら、何でもいいから早く上がってきて飛んでくれないか……という表情をしていた。すると、私を挟んだ左右から神楽ちゃんとお妙さんが声を上げて話し始める。


「まあ神楽ちゃん!ここで空中ブランコをバシッと決めったら……、とってもカッコ良くなぁい?」
「流石姉御ネ。私もそう思うアル。女々しい男は論外、覚悟決めて潔く飛ぶ姿に女はコロッと惚れるネ」
「うふふ……私も同意見よ。ですよねさん?」
もそう思うネ?」


左右から何か圧力のようなものを感じるのは気のせいではないはずだ。「ま、まあそうですね」苦し紛れにそう告げると、後ろで誰かが立ち上がった。振り向く間も無く銀さんが座席を抜けて舞台に上がっていた。

「よーし見とけよー。銀さんがバシッと決めてガシッとハート掴んじゃうからねー」

先ほどと打って変わり銀さんはやる気満々だった。そのまま土方さん達の横を通り、指定されたタイツ(凹凸がなく、引っかかる危険がない)に着替えて命綱とハーネスを取り付けると梯子をさくさくと登っていく。「旦那ー頑張ってくだせィ」沖田さんの応援は棒読みだけど。


「おっしゃァァァ!!見とけよ!!こんな銀さん見れるの数年振りだからな!!……って、思ったより高くね!?」


団長が合図をすると軽快な音楽が流れ始めた。観客席からの手拍子も合わさった。
銀さんの背後には双子の小柄な片割れが立っていて、彼が飛び出すタイミングを合図してくれるようだ。一方の長身の片割れの方は、既に反対側のブランコに乗って弧を描いている。本番には無かった安全用の網が張られ、銀さん自体には命綱が繋がれている。タイミングが合わなければそのまま会いに落ちることになるだろう。上から気合を入れる声が聞こえると、周囲のお客さんからも「頑張れー!!」と応援の声がかけられた。確かに、これで空中ブランコが決まったら格好いいとも思う。例え下の網に落ちてしまっても、あの高さから飛び出す勇気を見せてくれるだけで十分だけど。

「(そう言えばさっき、沖田さんが何か細工したままではなかったっけ?)」

彼が何をしたのかはわからない。けれど、あれから誰も金具を触っていない。と言うことは銀さん危ないのでは。

「おっしゃァァァ!!万事屋坂田銀時ィィィ!!!に男見せてやらァァァ!!!」

考えている間に頭上から叫び声が響いた。待って銀さん。そう制止する声を発する間も無く、銀さんは団員の合図と同時にブランコの棒を握り飛んだ。
最初の一回は様子見。二回目に両者のブランコが近づいた時、彼は雄叫びを上げながら手を放す。遠心力の勢いで身体が飛ぶ。銀さんの身体はそのまま相手の元へたどり着くはずだった。だが可動域が限られた命綱がピンと張って、彼の体を止めたのだ。
その力がかかった先は……何と、銀さんが着けていたハーネスの股間部分。つまりそこで彼の全体重を支えているということになる。


「うっぐぅぅぅ!!!」


この世の終わりみたいな顔をした銀さんが、宙ぶらりんよろしく、バンジージャンプの最後のようにブラブラと力なく揺れている。血走った眼を見開き、瞼がピクピクと動いているのは見間違いではない。それすらも見世物だと思ったのだろう。観客は大いに湧いていた。

「銀さん!!!?」

私はその場に立ち上がり、力なくぶら下がる男を見ていた。
安全網に落ちてこない男を見かねて、小柄な方の曲芸師が彼の命綱に飛び移り(その体重分も股間に上乗せされた)ハーネスと命綱を繋ぐ金具を取り外す。すると銀さんの身体はようやく解放されて、網の上に落ちてきた。宙に浮いていた時に相当の衝撃を食らったのであろう。その場で起き上がれなかった銀さんは例の双子に抱えられて、我々がいる観客席まで戻ってきた。


浮島サーカスとは……。割と深く作り込もうとして上手くいきませんでした(土下座)
20211225*星宮はちこ   裏語